しかし今、俺は確かに人間だ。こうやって笑うこともできるし、妬むことも嫉妬という激情を抱くこともできる。これほど素晴らしいことがあるだろうか。生命を吹き込まれた人形とオトモダチになれそうだ。
あいつはどうすればよろこんでくれるだろう。そればかりをいつも考えた。花が好きだったり、虹が好きだったり、――そういえば、この間は絵本を読んでいた。内容は全く覚えていないが、見たいものがあると言っていたことは、はっきりと覚えている。それを見せてやったら喜ぶだろうか。
「あ、一方通行!どうしたの?こんな時間、に…」
その隣に立つ男に怖気がした。その汚れた口で、馴れ馴れしくこいつと言葉を交わそうというのか。見ていられない醜態だった。それは腐敗臭すら漂いそうなほどに。
こいつはその醜さが分かっていないから、そばにいられるのだろう。教えてやらなければ、と思ったが気持ち悪いものを見せたくはない。今ですら吐き気がするほどにヤメテクレ、だのと訳の分からない呻き声を上げているのだから。男が強請るものほど鳥肌の立つものはない。
本音を言えば触りたくもなかったが、こいつが望むのだから仕方がない。浅黒い肌に指を伸ばすと綺麗な血潮が一面に噴き上がった。その血が何だかチョコレートのように見えて、演出が少しメルヘン過ぎただろうかと不安になる。
「あん、た、どうして、」
「あァ?オマエ、見たいって言ってただろ。残念ながら血のシャワーでしか代替できなかったけどよォ」
「そんな……ここまでしなくてもよかったじゃない!」
「気持ち悪ィンだよ、こいつら。オマエが笑いかけるだけの価値なンざ、どこにもねェ。カミサマも酷だよなァ、失敗作ばっかり乱造しやがって。……ンだよ、その顔。このクズの方が大事ってかァ?」
「……ううん、あんたの方が大切よ」
こいつのこの、涙に滲む笑顔が何より気に入っている。同情みたいな余計な感情全てを殺して、血まみれの俺の手を握る震える手がいつも堪らなく愛しかった。こうしてまた『イトシイ』という新しい感情を知る。
そして、俺はこの笑顔を守る為なら何でもすると決めた。笑顔の先にある下劣な男の顔を潰すことでも、こいつに汚い感情を向ける男の心臓を握ることでも。
この感情は何と呼ぶのだろうか。いつか幼い頃に読んだ『セイギ』と『ユウキ』に似ているかもしれない、そんなことを思った。
イミテーション
ヒーロー
ヒーロー
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110907
電磁通行で一方通行嫉妬リクエストより。
微量でヤンデレータ含んでますが、そこは目をつぶってやってください。一方さんって嫉妬で悪戯しちゃうような子供っぽいところもあるのではないかなぁと。その悪戯が彼の場合、度を越えてますけれども…!
title:虫喰い