わたしをエデンまで連れてって
※22巻ネタバレらしきもの

















(もォそろそろ朝か)

朝焼けに輝く白き翼を広げながら少年は遠い空をぼんやりと見つめる。彼に銃器を向けるスキルアウトはさながら翼を持たない哀れな愚者、だろうか。それとも欲にまみれて翼を焦がされたイカロスの子孫だろうか。どちらにしろ相手をしたところで、つまらない遊びにすらならない。襲いかかる集団に彼はただ立ち尽くすだけだった。ばさり、翼がもう一度美しく羽ばたく。





第七学区のあるマンションの一室で上条は目覚めた。彼の財布を悩ませる大食いシスターは最近、担任の教師にお泊まり会と称して遊びに行っているため、上条の生活は至って平和だった。そして目下、彼の楽しみと言えば。

(今日も来てるかな)

コーヒーを片手にマンションの屋上へと駆け上がる。その入り口は施錠されていたし、到底人間がよじ登ることはできない高さにあるのだが上条は、よっと軽く手を上げて挨拶をした。

「……毎日毎日物好きだなァオマエ」
「お前だって何だかんだ来るだろ」

コーヒーを投げ渡すとその少年は、表情を変えることなく缶に口を付けた。
一方通行。学園都市第一位の彼と偶然、この屋上で再会したのは少し前のことだった。今日と同じような空の下、かつて敵対し合った彼らは出逢った。その少年が変わったというのは、妹達から少しばかり耳にしていたから知っていたが、上条は一目でそれを理解した。

「やっぱきれいだよなぁ、その羽」

一方通行自身の能力で作られていることは分かるけれど、それ以上は上条の知る範囲ではない。それでもその翼の純粋な白さは少年の髪や肌の白さに似合う似合わないではなく、どこか内側の白さが誇るもののような気がした。

「残念だが、これは汚れてンだよ。よォく見りゃァ血だらけだ」
「俺には真っ白にしか見えねえけどなぁ…」
「眼科行って目ェかっぽじってもらえ」
「かっぽじったら見えなくなると思うのですが。…でも羨ましいよ、お前が」
「はァ?」
「空、飛べるんだろ?俺だけじゃなくて誰だって一度は憧れることができるんだ」

いいなあ、と呟くと一方通行はくだらないとばかりに溜め息を吐いて空になった缶を置いた。上条のもう行くのか、という問いかけには応えない。

「知ってるかァ?三下。羽のねェ鳥が死に物狂いで羽を手に入れたところで、走る人間には追い付けねェ物語を。要はカミサマの御啓示で生まれた時点で決まってンだよ、鳥には羽根を、ヒトには足をってなァ」

「……」

彼の押し黙った様子に満足したようににやりと笑う。上条と自分には天と地、黒と白、裏と表、それほどの差があると思っていた。そして上条の存在と彼の住む世界は、少年の憧れる光の象徴でもある。だからこそ彼の翼の羨ましい、綺麗だという言葉が気に入らなかった。
本当に焦がれるべき者は――。
そこまで辿り着いた思考を振り払う。憧憬の念を抱くことすら浅ましいと思えた。余りに遠い。

日が水平線上から少しずつ離れ始めていることに気が付いて帰ろうかと立ち上がったとき、

「……それでも俺は、」

ぱし、と細い腕を上条は掴んで引き留めた。

「共存、できると思う。たとえ世界が違っても」
「…何が言いてェ」
「え!その、……俺は、また、会いたい、なぁ、と。そりゃあお前みたいに飛ぶことはできないけどさ、」

どうやら少年の言葉は上手く彼に伝わらなかったようで、一方通行は何度目かになる溜め息を吐いた。演算を切り、放り出していた杖を拾って、それから掴まれていた腕を振り払う。何が悲しいのか彼には分からなかったが、唇を噛み締めて俯く上条を振り返る。
くだらないし、馬鹿げている。二つの世界は線引きされるべきだ。けれど。

「コーヒー」
「…へ?」
「次から二本。持って来ねェと爆死刑なンでよろしくゥ」
「まだ飲むのかよ!お前カフェイン中毒に……ってそれって、」

存外大きな音を立てて戸が締まった為に、その後は聞こえない。地上から明るくなった蒼い空に吹き上げる風が少年の白い髪を揺らす。さぞや息苦しかろうと思っていた世界は、彼の存在のおかげだろう、

(悪かねェな)

少しは手を伸ばしてみようか等とらしくもないことを考える自分に苦笑しながらも、それに嫌気は差さなかった。







わたしを
エデンまで連れてって





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110822

リクエストより上一。
女王様一方さんと下僕上条さんが好きなのですが、その前にbgm「See visionS」で書きたかったのです^^
しかし一方さんの白い羽根の詳細は全く把握してないので申し訳ない。上←一に壁があり過ぎるのに上→一は自由なのが愛しい。


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