My princess girL!
夏休みのある日、御坂は「学舎の園」で頼まれた打ち止めへの手土産を手にとある高層マンションを訪れていた。来る前に偶然出会って顔を見るなり逃げ出した無能力者のことは忘れて。
コンコンと一応のノックをすると、フロントでも聞いた声がどうぞーと応えた。

「お邪魔しまーす」
「いらっしゃいませぇ、オネエサマ」
「……あんただったか」

ソファに座り長い美脚を惜しみなく晒している御坂美琴そっくりの少女、番外個体。彼女は御坂のクローンだというのに、プロポーションが他の個体やオリジナルである御坂とは随分異なっている。御坂は常から幼い体型を気にしていた為、彼女が非常に羨ましかった。
そしてその番外個体が恋人のように寄り添っている件の少年。

「一方通行、打ち止めは?」
「芳川……保護者と買い物だ」
「じゃあこれ、渡しといて」
「あれ、お姉様もう帰っちゃうの?ミサカと遊ぼうよ」
「はあ?何で私が、」
「お姉様って上位個体達には優しいのにミサカには冷たいんだ…」
「うっ……分かったわよ」

残念ながら御坂は一方通行がまたか、と溜め息を吐いていることに気付かなかった。彼女がこうして他人をからかうのは日常的なことで、同居している彼にとって、これからそれに付き合わされる御坂が気の毒でならなかった。

「ねぇところでさ、お姉様ってAでしょ?」
「はあ!?なななななに言って、別に私はあいつと、」
「そっち聞くのも楽しそうだけど、胸だよ、む・ね。お姉様って可愛らしいよねー、ミサカのオリジナルなのに。ほら、ミサカは有り余ってるから、お姉様にあげたいくらい」

番外個体はぴったりと密着した一方通行の腕に豊満な胸を押し付けて、御坂に見せつけるようにその大きさを強調する。

「っていうかこの部屋暑いよねぇ。ちょっとボタン開けちゃおっかな」
「なっ…!」

首もとまで詰めた服のボタンを二つ三つ外すと、襟から下着が見え隠れする。いつも下着を買うと隙間が空いてしまう御坂とは違って、くっきりと綺麗な谷間が覗いていた。
あれだけあれば、あの少年の周りにいる女の子達に引けを取らなくて済むのかもしれない。そんな場違いなことを考えてしまった。

「羨ましい?羨ましいよね、だってお姉様は好きな人にオンナノコとして見られてないんだもんね。でもねぇ、根本的なところが違うんだよきっと。胸とかじゃなくてお姉様は、――あだっ!!」

番外個体の言葉は一方通行の手刀によって遮断された。彼の表情には度を超した呆れの色が浮かぶ。

「イイ加減やめとけ。テメェの言葉は耐性がねェと痛ェンだよアホ。その見苦しいもンさっさとしまいやがれ」
「なに?じゃああなたはお姉様みたいな貧乳の子でもいいわけ?」
「ンなの関係ねェだろ」
「はああああああ!?わけわかんない!ミサカよりお姉様のがいいってわけ!?……わかった、第一位は自分で育てる派なんだ!小さいのから自分好みに発育させてくのがポリシーだから発展済みのミサカには興味無いんだ、この変態野郎!」
「露出狂に言われたくねェ」

どたばたとまた一騒ぎありそうな雰囲気に御坂は、一つ溜め息を吐いた。
変えられないものは変えられない。それは番外個体の言う身体だけでなく、性格や能力でもそうだ。御坂の立ち位置であるレベル5で第三位という至上の位。

「……悪かったな」

番外個体に付き合っていたら、打ち止めが帰って来て新たな戦力が加わって、それはもう大変な喧騒で気が付けば夜も更けてしまっていた。御坂には必要なかったが、打ち止めがどうしてもというので一方通行に寮まで送ってもらうことになった。

「別にあんたが謝ることじゃない。私はあの子を嫌ったりしないし、それに、慰めてくれたのはあんたの方でしょ。あの子が次に言うこと分かってたからわざと止めた、そうじゃないの?」
「……」
「案外優しいのね」

目を逸らした彼に御坂はくすりと笑う。そしてひょい、と道脇の橋の欄干に飛び乗った。

「時々ね、能力がなかったらって思うの。そしたらあいつはもっと守ってくれるのかなって、バカよね。でも……ほんとは守られるだけのお姫様になってみたい」

赤い瞳はひたりと立ち止まった御坂を捉える。その表情に浮かぶ色は悲しさとも寂しさとも呆れとも言えなかった。
一方通行には同じレベル5と言えど、彼女の感情を理解するのは難しい。一方通行は男で、御坂は女だからだ。守る存在と守られる存在。

「…それでも、」

ただ、彼は知っていた。神の申し子の如く扱われる超能力者が当然に強いわけではないことを。

「俺のすべきことは変わンねェ。第三位だろォが守る、それだけだ」
「、は、なに……えっ!」

意表を突かれたせいで電磁波で支えられた身体は風に煽られてぐらりと傾く。強い力で引かれて落ちた先は冷たい水の中ではなく、

「あ、ごめっ…」

御坂には何が何だか分からなかった。頬に触れる冷たい掌が綺麗な赤い瞳が、そして絶対的な力が、何故自分だけに向けられているのだろうか。あ、と思ったときには彼の真っ白で端正な顔が近付いて、そして、

「って、ちょっと待って!あああんたなにしようとして、」
「何ってキ、」
「うああああああ!!あんた誰にでもこういうことすんのね!?まさか打ち止めと番外個体にも手ぇ出してアブナい同棲生活!?駄目よそんなこと!妹達の姉の名にかけても――」

脳の容量がオーバーしたのか、御坂は一方通行の腹部に乗ったまま顔色を赤、青、と忙しく変えて何事かを叫び続けている。壊れた人形のように。
これではまともに話ができない上に漏電しかねない状況だと悟り、御坂を下ろして立ち上がった。

「一つ、あの無能力者と一括りにされたくねェから言っておくが、」


『俺は、オマエだけだ』


「もう、何なのよあいつ…!」

カエルのぬいぐるみを抱きながらベッドに飛び込んだ。言い表せないもやもやとした感情が胸の中に詰まっていて苦しい。
御坂美琴は上条当麻が好き。それは間違いなく正しい事実だ。だから何を迷うこともない筈で、あの赤い瞳を思い出す理由もない。

「……ずるい」

次会う時にどんな顔をしたらいいか分からなくなったじゃない、と理不尽に少年を責めながら頬を染める少女は、第三位の枠も飛び越えた恋する乙女そのものだった。




My princess girL!





------------------------
110816

番外電磁通行のリクエストより。
だらだらと長くて申し訳ない!珍しく甘くしてみたりして楽しかったのです。御坂さんは立派な電撃姫ですよね^^


prev next

bkm
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -