氷上のエロイカ







「どわっ!!」

派手に転んだ少年は、そのスケートリンク内で一番残念なスケーティングを披露していた。打ち付けた後頭部をさすっているとジャッと勢いをつけたブレードが眼前で止まった。端正な顔の少女が仁王立ちで上条を見下ろしていた。御坂美琴――つい最近、上条の「悪友」から「恋人」になった少女である。

「アンタ……上達しないわねぇ」
「上条さんには不幸属性っつーハンデがあるんです!それに御坂がほっぽりだしとくから悪いんじゃねぇか!」
「だってあの子の上達具合見てたら感動しちゃってさ」

御坂の親指の指す方を見れば、インデックスが優雅にスケートを楽しんでいた。その自然な様と言えば氷上に舞い降りた妖精か何かに見えるほどであった。

「アンタとスタートラインは同じだったのに……補助の手を離したときの寂しさと言ったら親が娘を嫁に出すのってこんなんかなーとか思っちゃったわよ」
「んな大げさな……。とりあえず御坂さん、お手を拝借」
「ったく、しょうがないわね」

普通は逆でしょうに、とぶつぶつ聞こえてくるが上条は無視を決め込んだ。考えたら負けである。

「いーい?右足を先に出す」
「右、な。……うわわっ御坂っ!」
「手、握ってあげるから。で、次は左…右、左……そう、上手いじゃない」

さすが「お姉様」と呼ばれているだけあって御坂の教え方は非常に分かりやすかった。それでもって普段は見せない大人びた笑顔で褒められたりするものだから上条としては意識してしまって集中できなかったりして逆効果な面もあった。

「しかし、だいぶ滑れるようになったなー。さすが御坂っていうか、何でもできるんだな」
「ま、まあね……授業でもやるから。大会もあったりするしね」
「みことー!!」

周回していたインデックスが上条達の休憩しているフェンスの辺りに戻ってくる。彼女の表情は満面の笑顔だった。

「何だか褒められちゃったんだよ!なんだっけ?『れっすん』に来ないかって」
「へぇーすごいじゃない!アンタ覚えいいもんね」
「えへへ。みことの教え方がいいからなんだよー。それで?とーまはまだ滑れないのかな?」
「『まだ』に悪意を感じますよ…インデックスさん。そりゃー上条さんも上達したいのはもちろんなんですけどねー…」

こういうのは普通、男の自分が彼女に教えて「きゃーこわーい!」「オレにつかまってろ!」なんていう上条少年の妄想があるだけに完璧な彼女がいる彼氏はつらいよ、な気分の上条であった。
好きな女の子に頼られたいし、格好いいところを見せたいと思うのは不幸だろうが何だろうが男として当然であって。それだけにこの状況には溜め息の一つも漏れるものだ。

「何よ、辛気くさい顔して」
「いや、なんつーか情けねぇなって。こんなのは男の役目だろうに」
「なに言ってんの。アンタはこうしてバカやってればいいのよ。私がアンタを引っ張って、幸せにしてやるんだから」
「それはそれで嬉しいんですが、うーむ……いいのか?これで」
「かっこいいかも、みこと!とーまなんかやめて、わたしをお嫁さんにしてほしいんだよ!」
「えー、それじゃあ私はアンタの王子様ってわけ?一回くらいはお姫様になってみたいんだけどなぁ」

きゃっきゃとはしゃぐ少女二人を横目に、上条はやはり「不幸だ」と呟くのだった。







氷上のエロイカ


------------------------
120224

上琴で一度は書きたかったスケートネタ!一番楽しいのは私です(汗







prev next

bkm
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -