君を殺した犯人は僕だ
サアサアと静かな水音に支配される浴室の中はまるで二人だけの世界だった。混じる薔薇に似た高貴な匂いが鼻を刺す。血の生臭さまで消すその甘さが一瞬で弾け飛びそうな感情を煽る。
何も知らないみたいに静かね、と笑った。その何でもない、そうするのが当然だという口調が堪らなく嫌いだった。何もかもが恨めしい。

「…どうして無茶したんだ」
「……」
「あと少しでも俺が遅れてたらっ…!」

行き場のない憤りは壁に叩き付けるしかなかった。
冷たい雨の中、制服を真っ赤に染めながら立ち上がる御坂が初めて怖いと思った。死ぬことすら恐れていない、守りたい者の為だけに戦う姿が。それはたぶん、俺が当たり前のようにしてきたことだ。だからこそ気付けなかった。『もしもあの時――』そんな世界で大切な人が生きていることが途轍もない恐怖になり得るということを。

「死んでもあの子達を守る、それだけよ」
「……やめろ。死んでも守る、なんてそんな、」
「そうしなきゃいけないの、私は。もう一万人も殺してるんだから」
「それは…お前がやったわけじゃねえだろ」
「じゃああいつに全部押し付けろって?は、あんたらしくもない」

御坂の言う『らしく』が誰にでも優しいヒーローだとしたら、それは幻想だ。彼女がその俺を好きだと言うならば、その俺さえも憎い。御坂が守ろうとするあいつも許せない。
御坂との間にあるシャワーカーテンを開けて、拒むように背を向いた細い身体を抱きしめた。濡れた制服は湯を吸って生暖かくなっていて、血の匂いが濃くなる。思わず顔を顰める。――どうして、こんな風になってしまったのだろう。

「やめろよ、あいつの為にお前が死ぬ必要なんてどこにもねえじゃねえか…!」

いつから、こんな狂ってしまったのだろう。

「御坂っ…」

俺の周りで子供のように怒って電撃を放ってきたり、誰かの為に泣くことしかできなかった、あの小さな女の子は俺の手からするりと抜けて消えてしまった。何も出来ない、それで良かったのに。彼女は大人になってしまった。大人になって、他の男の為に命を懸けるようになってしまった。彼女に何の力もなければ良かったのに。

「ごめん」

どうすれば止められる――?
そう考えた脳は簡単だった。強く抱いていた肩に意図せずに食い込んだ爪とそこに残った痕が示す答えは、

「はは、そうだよな…」
「っつ…なに、」
「ごめんな。止まれそうにない」

剥き出しの白い肌に、痕を付ける、なんて可愛いものじゃなくて、その誰かの為に付いた傷を上書きするように傷を抉って、傷付けて、泣き叫ぶ声こそが奥底で揺らぐ嫉妬と不安を満たしてくれた。嫌われてもいい、そばにいてくれれば。いつどこでどうして、おかしくなったかなんてどうでもいい。
ただ、笑い合ってたあの頃と違うのは、この想いはもう二度と君に届かない。



君を殺した犯人は僕だ

-------------------
1101012

上琴で病み条さん&嫉妬する上条さん合わせて消化させていただきました。
上条さんはきっと病んでしまったらなかなか戻れなくなってしまうのだろうなあ、と。御坂さんが戻って来てくれないことが分かっているからこそ手段が選べない、なんていう切ない、病む恋を目指してみました。


prev next

bkm
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -