皇帝←仏方







「土方、お前を呼んだのは他でもない」

「はい」


「お前には今夜私と寝ることを強いらせてもらう」


刹那、この顔面に張り付けた笑みという名の仮面が崩れ落ちかけた。
なんですと。
俺にか。普段から隙があらば唇を狙ってやろうかと、名前を呼ばれるたび密かに心拍数が上がり、愛おしさのあまり抱き締めたくなるのを耐えている俺に。屯所内を回るたびカイザーを連れ込めるような人気のない空き部屋を探しているような俺に言っているのかこいつは。

「どうした?」

握りしめた拳がかつてない湿り方をしていたが、そんなことに配る思考などない。きっと肯定すると俺は、今まで踏み止めてきた一線を突き抜けることになる気がする。というか確実にあの日から蓄積され続けた性欲が暴走する。それは非常にマズイ。

「主君である私と共に床に就けるのだぞ。有り難く思えよ、なんだその顔は」

「は、はは‥ですが」

「喜ばしいことだろう、ん?」

バサリといつものケープを手渡され、本格的に逃げがたくなってくる。
天蓋つきのキングサイズのベッドとはミスマッチな寝間着である白の単衣に着替え、寝る気満々な皇帝に、逃げようとする自制心がビキビキと音を立て罅を作っている。

「おおお俺も着替えてきます」

「いい。私は眠たいのだ」

散々脳をフル回転させて叩きだしたとっておきが一言で弾かれた。畜生、お前のことを思って、言ってやったっつうのに。

「はやく。チェンソーで切り刻まれ千々にされたらどうする」

「‥‥‥‥‥」

はやく、の後に土方ぁ、と付け足されていたら今頃どうなっていたやら。つーか、え、チェンソー?もしかしてもしかすると、

「‥‥‥皇帝、昼間何か観てました?」

「‥‥」

「キ、キ、キ、キ、マ、マ、マ、マ的な」

「やっやめろっ‥!!それは、駄目だ!」

耳を塞ぐ皇帝、こいつ昼間13日の金曜日みてやがったな。

「‥それで俺を呼んだのですか」

「口外出来ないだろう‥‥お前以外に」

可愛いこと言うじゃねぇか。散々ホラーネタで嫌がらせを企ててきた総悟が、よもや大人になってこんなことになるなんて誰に想像が出来たことだろう。

「俺の体も収まりますかね」

「少し縮め」

「無茶言わないで下さい」

仕方ない。俺の一生分の理性がどうにか煩悩を抑制してくれると願って、ジャケットを近くの椅子に掛け腹を決める。が、皇帝のあらわになった白い喉元が眩しくて、早くも邪な思いが脳裏を縦横無尽に駆け巡る。まるで魔性だな。


「お休みなさい、よい夢を」


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