その瞳は自分の立場が不利だというのに、畏れの一つも浮かばせない強い色をしていた。だからこそ、興味が湧いたのかもしれない。
「何が、目的?」
「何だと思う?」
ニコリ、聞き返せば彼女はますます眉間に皺を寄せた。掴んだ右手首を引き剥がそうとするのは無意味だと悟ったのか、無駄に暴れなくてよかったと俺は密かに安心している。
彼女の連れの一人を屋上までお借りした。屋上が俺らのちょっとした溜まり場なのは此処では暗黙の了解である。案の定彼女は作戦通り、連れの奴を取り戻しに俺に会いに来てくれた。
「それにしても、ほんとに来てくれるとは思わなかったよ。しかもご丁寧に一人で」
「お望み通り動いてやったんだから、そいつ返してもらえる?」
「別にいいけど」
キスしてくれたら。
小声で囁く。さて、彼女はどんな反応を返してくれるだろうか。唯一の退路も逃げ場も無くした彼女が動揺するところが見てみたい。その反応をどうからかってやろうか。にやりと見やると、荒々しく前髪を掴まれる。
「あんた意外とダサいんですねい」
一瞬口の端に触れて、引っ張られていた前髪を解放される。腕は咄嗟に振り切られ、俺は柄にもなく目を丸くしていた。
唇を拭い、目の前で唾を吐くようなふりをして仁王立ちの彼女は目を合わす暇もなく、連れと一緒に退室した。
「あはは、つまんない女」
だけど反面、彼女に惹かれはじめていたなんて思いもしなかった。