朝に4つカバンに忍ばせたチョコレートも残すところ後一つ。1つは手作りのブラウニー(我ながら良い出来)を近藤さんに。1つはチョコレートにマヨネーズとタバスコをぶちこんで固めたものを土方のヤローの顔面めがけて。そして1つは市販のちょっと値のするやつを銀八に。これで今季の成績は安心を約束されたことだろう。
さて、残り1つ。




もともとあげる予定だった訳じゃないけど、どうしようかと考えてたら自然と足が動いていた。屋上への鍵は拝借済み。

「おーい居るかチャイナ野郎」

お馴染みのピンク頭を探す。殺風景だから見渡せば目には付かないはずはないのに、いないパターンかこれは。
せっかく来てやったのに無駄足だったじゃねえか。ていうかいつも居るのに何で今日に限って居ないんだよあの野郎。どうしてわざわざ時間を割いてやったこっちが空回ってんの。私がアイツを想ってるみたいでやだ。

青い空が私を冷やかすように笑った気がして無性に腹が立った。

「っくそチャイナ!!」

叫んでも何も変わんねェってば。帰ろう。これ、屋上から落として今年もゼロのガキへの天からのプレゼント、とか面白いんじゃない。
多分だれか拾うだろう。バレンタインなんだから。

「おジョーさんそれ食いモン?」

スカートの捲れも気にせず大げさなモーションでチョコを手放す瞬間だった。振り返ると見覚えのあるピンク頭。ではあるが奴ではない。長ランを着た男が壁に寄りかかりながらヒラヒラと手を振っていた。

「俺腹減ってるんだ。棄てるくらいなら頂戴」

「いや、先客居るんで」

何今になって見栄張ったんだろう。カッコ悪い。

「ああ、さっき叫んでたチャイナとか言うやつ?」

「……いつから居たんだよアンタ」

「キミが来るよりは前からだなあ」

のらりと近寄ってきたコイツは意外とひょろそうな割にデカかった。アイツもこんくらいデカくなるかな、とかとっさに考えている自分に嫌気がさす。

「あ、もしかしてチョコとか?」

「アンタにゃ関係ない」

「ふんふん素直になれないタイプなんだねえ。青い青い。こりゃ前途多難そうだなあ」

にやにやと分析してくる不躾なこの男を此処から突き落としてやろうかと思った。
話してられない。あと確信を突かれるのが嫌だったから逃げるように横切った。

「……何なのこの手は」

「腹減ってるの。それ頂戴よ」

「…………」

もうどうでもよかった。どうせチョコの中身は唐辛子だし、リアクション目的だったし、さっさとこの場を去りたかった。

「もういいだろぃ。放せ」

「うん。あと名前教えてくれる」

「…………沖田」

一瞬だけコイツの目がまるく開いて、それからまた確信を取り戻したように目を細め出した。


「俺は神威。弟にするくらいなら俺にしたらどうかな沖田ちゃーん」

渡したチョコにキスして見せながら、そいつが笑った。







title / 黄色
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3Zの夜兎兄弟は太陽大丈夫ですよね?



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