!)二年後のはなし
仏×皇帝





頭の中で絡まるものと、身体の芯からの渇望が悪いのだ。
そう自分を無理やり正当化して秘所に指を伸ばした。

「くッ‥‥あ、っ」

自分で自分を慰めるなんて滑稽で仕方がないと思った。でもあったはずの何かが抜け落ちてしまったような感覚に襲われ、定期的に自ら欠如したものを満たさなければ頭の中で熱が籠もり煮えるかのようで、苦しかった。

「ぁ、いッ‥‥!!」

随分と自慰をしなかったためか、見えない場所に指を埋め込もうとすると加減が出来ず、内部を傷つけた。ピリッとした痛みは少しも快感をくれなかった。

「‥‥くそ、」

そうだ。本来は当たり前のようにアイツが相手して、精処理もして、求めずとも求めてきて、好きなだけイって突かれて、全部全部スムーズすぎだったけどこっちにとっては楽だった。毎回有り余るくらい満たせてくれる。
でも、今の立場上それは成立されることはないだろう。私は皇帝で、アイツは仕える只の忠僕。今じゃ従順過ぎて欲をも忘れているかのようだ。

「‥‥‥‥」

自慰も満足に出来ないまま僅かな血と先走りを眺める。不十分だ。虚しさだけが身体に残ったまま、部屋の外にいる見張り隊士に聞こえるよう小さくベルを鳴らした。これは風呂の準備の合図である。
適当にティッシュで拭って布団を被る。ギッ、とスプリングする音と共にノックする音が聞こえた。

「‥着替えの調達も自分でやるから下がっていい」

返事がなかったのは気にならなかった。それよりぽっかりと空虚になった心がどうにかなりそうだった。またノックが鳴る。処刑してやろうかとドアに向き合った瞬間、

「皇帝」

「!」

土方の声だ。

「皇帝、開けてもらえますか?」

「‥‥‥断る。第一、こんな時間に」

「すいません。緊急の資料で、印が直ぐ必要なんです」

ドキドキと脈打つのを抑え、仕事に対しては何時も真面目で厳かにしない勤勉な姿に副長だった時の彼を重ねた。

「‥わかった。ドアの前に置いておけ」

「直ではいけませんか」

「開けたら殺す」

「‥‥‥」

返事は帰って来なかった。でもこれでよかった。おそらく今、奴と顔を合わせていたら取り乱してしまっていただろう。安堵して内鍵を解いた。カチャ、とドアノブに手を掛ける。すると、引く前に向こう側から押された。しまったと思ってももう遅い。

「!!‥‥ひじか、」

「随分と遅い時間に風呂ですね」

「ッ関係ないだろう!直ぐに出ていけ!!」

顔は上げれなかった。ヒステリックな自分の声が嫌に響く。土方に掴まれている左腕が妙に騒いだ。

「皇帝、俺に言って下さったらいいのに」

「放せ、許可も無しに勝手に入るなと‥!」

腕に力がこもり、そのまま壁に背中を押しつけられ逃げ場を無くすかのように土方と壁に挟まれる。耳元で「苦しいんでしょう」と甘く囁かれ身が奮えた。背筋をぞくぞくと通り抜けるように、懐かしい感覚がして身体か熱くなる。

「んっ‥!」

いつの間にか施されたキスは苦い煙草の味が殆どなかった。舌で口をこじ開けられ、ヌルリと意志をもった舌が口内で蠢く。

「‥っはぁ、貴様っ‥!」

「見栄はらなくていいですよ。いいんですか?自慰も出来ないってことは随分長い間溜まりっぱなしなんでしょう?」

「な!‥ふざけ、あ、っ!」

「始末くらい上手にしてもらわないと困りますよ。もし俺じゃない隊士に貴方の使用済みのティッシュ見られたらどうするんです?」

土方が視線をずらした先のモノを確認して、自分を呪った。あんなの、自分が何をしていたか丸分かりだ。にやりと見下ろしてくる眼が微妙に柔らかいのが余計屈辱的だった。

「ほら、触られるのも久しぶりなんでしょう?」

「‥ッ!!」

「溜まり過ぎだとお身体にも支障が出ますよ。皇帝のためにもです」

「いやだ!‥はな、せ!」

「丁重にお断りします」

着物の裾から入り込んだ指が中心を握った。とっさに声が漏れそうになるのを必死に抑える。
本気で嫌なはずはなかった。自分の滑稽な自慰なんか比べものにならないくらい鋭い快感をくれる、この男の骨張った指がさっきまでは欲しくて堪らなかったのに。今は無性に

「ぃやあ‥待てっ、‥や‥‥もっ!」

「沢山、出してしまってください」

「あ、く!っあァ‥!!!」

耐えて甲斐もなく、立ったまま土方の手に思い切りだしてしまう。溜まっていたものが出た分射精が長く、足がガクガクと震え終始床にへたり込んでいた。

熱帯びた視線も愛の言葉の一つもなく、淡々と目的を果たすような業務的で他人的なこいつが死ぬほど気に食わなかった。
私の欠落したものを埋めるのは同じ欠落した男。只の傷の舐め合いが酷く空しかった。
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