運が悪かった。学校を出た時は穏やかな天気だったくせに、帰路について数分後、バケツをひっくりかえしたような土砂降りだ。勿論傘なんてもの持ち合わせてはいない。

「土方さーんどうしやすかー?」

総悟も俺もすでに濡れていて、張りつく前髪をうざったそうに拭いながら総悟はくしゃみをした。生憎雨宿りできそうな場所はない。

「仕方ねぇけど走って帰るしかねぇだろ」
「そーですねぃ。っくし、」

初秋だというのにこの馬鹿はワイシャツとその下にいつものSティーシャツだけという薄着。もともと冷えやすいくせに薄着で雨曝しじゃ風邪引くに決まってんだろうが。

「総悟、これ着てろ」

自分の学ランを頭から被らせる。きっと少しは防水してくれるだろう。幼いころからよく世話をしてやっていたおかげか、俺自身すっかり過保護になったものだと思う。

「もう濡れてるから意味無いでさ」
「つべこべ言わず傘の代わりにでもしとけ」
「‥土方さんは感覚麻痺でもしてんですか?」
「いや寒ぃに決まってんだろ」
「‥‥まあ、ありがたくもらいまさ」

何かと子憎たらしい奴だ。昔から本当に変わんねぇな。たまには素直に好意のひとつやふたつ受けとめれねぇかな。

「オラ、走んねぇと靴下まで濡れちまうぞ」
「‥土方さん、手」

するりと総悟に手を握られ、手のひらが触れたところから熱が生産される。

「馬鹿にはこれだけで十分だろぃ」

可愛くねぇ奴だ。イタズラっぽく笑ってみせる顔も、細い指も、水分を吸い込んだ髪も全て抱き締めたくなる。
確かな左手の体感温度を確認しながら、泥水の跳ねも気にせず土砂降りの中心音ごと脚を加速させた。
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