「あれ、土方さん遂に老眼鏡デビューですかぃ?」
「誰が老眼だ。普通に視力悪くなっただけだっての」
「ふーん‥‥」

他愛ないいつも通りの会話。違うといえばこの、華奢なフレームの眼鏡を掛けていることくらいだろう。その事で総悟がいろいろ突っ掛かってくるかと思っていると、始めの軽いジャブにも入らない程度で、会話が切れそのまま学校に向かった。

だが、総悟が明らかにおかしいことに気付いた。
挙動がおかしいとかそういう意味ではない。なんというか、要約すると驚く程静かなのだ。今だってほら、いつもは爆睡か紙飛行機をひたすら折るか消しゴムを投げるなどして俺の授業妨害をしてくるのに、ただぼんやりと窓の外の大して青くもない空を眺めていた。

「――っ」

と思ったら視線に気付いたかのようにいきなり振り向いてそのおかげで目が合った。滅茶苦茶不愉快そうな表情されるとちょっとは傷つくんだが。

「何ですかいさっきから。アンタの視線が痛いんですけど」

そんなに見てたのか。無意識下って怖ェな。総悟はあからさまに眉間に皺をよせ、不機嫌というより不機嫌に見せようとしているかのようにみえる。さてどこで機嫌を損ねるようなことをしたかなど俺には見当もつかないから、余計なことをしてコイツを煽るようなことは避けようと大して汚れていない黒板に目を戻した。

「‥‥‥」

今度はやり返しなのか隣斜め下からものすごく視線を感じる。総悟もこんな気分だったのだろうか。数分耐えてみようとするも、一向に降り掛かる監視に似た感覚はおさまらないし、止む様子もない。仕方なく振り向くと机に突っ伏した総悟とばちりと視線が交差する。

「‥何だよ」

「土方さんがメガネ似合わなさすぎで吹き出そうとしてたところでさぁ。てことで明日からはコンタクトでお願いしまさ、じゃねぇと俺割らさないでいる自信ねぇんで大変なことになりやすぜ」

つらつらつらと早口で話されてまともには聞き取れなかったが、そんな内容よりもあっちを向いてしまった耳がすっかり赤っぽく染まっていたほうが気になったのだった。



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