私はその日、2度目の失恋をした。





幼なじみだったキッドは、昔から短気で喧嘩っ早くて馬鹿なヤツという印象が強い。
昔はぎゃあぎゃあ騒がしい感じの馬鹿だったが、中学高校と歳を重ねるごとに多少は落ち着いてきて、今は喧嘩ばっかりしている馬鹿になった。

そんなキッドを好きになったのはいつのことだったか、そしてキッドが先輩を好きになったのも多分同じぐらいだ。


すれ違うように始まった片想いだったが、好きになった故にキッドが先輩を好きになったことに気がついてしまった。
幼なじみで色々と打ち解けていたせいで、キッドは自分にだけ本当の気持ちを打ち明けてくれた。


これが一度目の失恋。
泣きたくなるような喪失感と、信頼されている喜びで、よくわからない感情がグルグルと身体の中を巡って、暫くは眠れない日が続いた。
でも毎日当たり前のように側に居られることの方が嬉しくて、気持ちは変わることはなかった。



そして今日。キッドが好きな先輩に告白した。
これが二度目の失恋だ。



ぽつん、と教室に佇んだまま外を見つめる。
頑張ってねと背中を叩いて送り出したのはよかったが、不安や焦りでおちおち帰ることなんか出来なかった。

キッドが帰ってくる前には帰らないととは思うのに、足が上手く動かなくて鞄がやたら重く感じてしまう。
鞄の中には念のため用意した手作りのチョコレートが入っていて、きっとそれが重たいのだ。

渡せる筈もなかったのに用意するなんて馬鹿みたいだと思うのに、空気に浮かれて用意してしまった。



「なんだよ、お前まだいたのか」


夕日の差し込む教室にキッドの声が響いて、思わず鞄を持っていた手に力が籠る。
思っていたよりも帰ってくるのが早かった。

ドッドッと早鐘のように鳴り響く心臓を制服の上からぎゅっと押さえて背筋を伸ばす。


「頼りない幼なじみが心配で」

「余計なお世話だ馬鹿女」


からかうように笑ったキッドは、机に置いてあった何も入ってない鞄を持って短く息を吐き出した。
ガリガリと掻かれた赤い髪の毛が弱い夕日に照らされてキラキラと綺麗に光る。


「とっとと帰るぞ」


目を合わせないまま教室から出ようとするキッドは、分かりやすいぐらい傷付いていた。


「キッド!」


いつもは強がりばかり言う背中の癖に、今日は頼りがなくて小さく見える。


「私、失恋したの!今日!」


傷の舐め合いなんて柄じゃないけれど、なにか言わないと後悔しそうで咄嗟に口走る。
それを聞いたキッドは自嘲するように笑って、一瞥した。


「……嫌なお揃いだな」


そう言って笑ったキッドの顔はきっと一生忘れられないんだろう。












お揃い失恋。