男は好きな女の子ほどいじめたくなるというが、あれは本当なんだろか。
もし本当だとするなら、実際のところは何%ぐらいの男が好きな女をいじめるのだろうか。

誰か教えてほしい。切実に。
嫌いでいじめている場合もあるのかどうか。


「はぁ……」



甲板にいるせいか、潮風のおかげで身体がしょっぱくなってきた気がする。ため息一つがなんだか塩辛い。
視線の先にいる男、サッチは今日も元気にナースを口説いている。
何というか毎日女を口説いていないと気が済まないらしく、フラれてもフラれてもローテーションで女を口説いているからある意味凄い男だ。

義務のように口説いてるくせにちゃっかり好みもあるようで、ナースしか口説かないところが何とも言えない。
女で唯一の戦闘員である名無しは完全にアウトオブ眼中。

口説くどころか完全に男としてしか認識されていないし、全裸で歩いていてもなんのコメントもされないだろう。


本当は恋に悩む乙女だったりするのだが、サッチがそれを望んでいないのを知っているから表には絶対に出せない。


今日だってこっそり用意したチョコレートを渡そうと思ったのだが、勇気を振り絞って朝声を掛けたら、「弟からチョコレートをむしり取るほど飢えてねぇよ」と頭を撫でられて笑われて、それ以上はなにも言えなくなった。
告白する前に根元から削ぎ落とされたような気分になった。



サッチは優しい。
馬鹿でなんの取り柄もなくて短気でいいところなんて一つもない自分にもそこそこの愛情をくれる。
優しいけれど、優しすぎてたまに憎らしくなってくる。


女と認められず、兄としての優しさばかり向けられても、兄として見れていない自分からしてみれば拷問に違い。
いっそのことお前なんて嫌いだとすっぱり言ってくれたよっぽどましだ。


受け取って貰えなかったチョコレートを握り締めながらサッチを見ていたせいか、綺麗にラッピングされていたはずの包装紙がくしゃくしゃになっていて、最初の可愛らしい面影はすっかり無くなってしまっていた。

このチョコレートもナースのような美人に買われていたらもっと素敵な運命を辿れたのだろうか、自分の手元にある時点でもうゴミ箱行き決定だ。


受け取って貰えなかったチョコレートを自分で食べるだけの図太さは、不思議にもまだ備わっていなかったようだ。


「サッチ、大好き」


女としてはもう枯れていると思っていたが、そうそう簡単に女を捨てられるものじゃなかった。


一人呟いた言葉は船にぶつかる波の音に打ち消され、手元を離れて海に落ちていったチョコレートは、吸い込まれるように白く泡立った海に消えていった。












人魚になったチョコレート