いつも不機嫌そうな顔をしているか、それが更に酷くなった。

「建築士のヤツだろ。いけすかない性格の元シコウのヤツ」

「そうそう!キッドの会社も入ってんの?」


ベコベコッと缶を凹ましながら不満そうに口を開くキッドはローと面識があるらしい。
もしかしたらなにかヒントを貰えないかと期待に満ちた目で見てみたが、それ以上は何も言う気がないらしく二本目のビールを開けていた。



「なんか面識があるみたいな話になったんだけど私全く覚えてなくて」

「いやお前とはねぇだろ」

「そうだよね!?」



興味無さそうにビールを喉に流し込みながらうんうんと適当に頷いたキッドは、気まずそうに目を泳がしていた。
大抵こう言うときのキッドは嘘を吐いている。
長年の付き合いでそこら辺は熟知しているが、キッドは嘘を吐くのが苦手らしく必ず目が泳ぐ。



「なにか隠してない?」

「別に」

「なんかローさんについて知ってるんじゃないの?正直に言いなさいよ」

「言ったらお前、怒るだろ」

「…なにその不気味すぎる前置き‥」



その言い方じゃ、まるでキッドがなにかしたように聞こえる。
ここは常套に怒らないから教えて、と言うべきなのか。



「なんか私ローさんにダメなヤツ扱いされてるんだけど‥」

「気にすんな、とぼけてれば問題ないねぇ」

「いやいや知ってるなら教えてよ!会社の命運がかかってんだよ!?」

「…‥」



暫く黙っていたキッドだったが、深くため息を吐いてちらりと名無しの方を見た。
それを睨みで返すと、3本目のビールに手を伸ばしたのでそれを奪い取る。


こう言う沈黙時に、相手に飲み物を与えると飲み込んでしまうらしい。何かのドラマで見たことがある。



「怒んないから言ってよ。仕事に支障が出たらどうすんの?」

「…トラファルガーにお前の会社を教えたのは俺だ」

「は?」

「だから、トラファルガーがお前の会社を知りたがってたから教えたって言ってんだろ!!」


何故か逆ギレしたキッドはそれだけ言い切って、名無しが没収していたビールを奪い取って一気に飲み干した。
ごくんごくん、と美味しそうに喉を鳴らして飲み込んだキッドは腕で口を拭って、ダルそうに息を吐く。



「て言うかそもそも私ローさんのこと知らないし‥」


そんな喧嘩腰に言われても名無しからすれば訳がわからない。
ローが名無しの会社を聞く理由も、キッドとローが繋がっているわけも。


「アイツとは昔から反りが合わなくて高校時代によく喧嘩してたんだ」


ぽつぽつと言いづらそうに口を開くキッドの手の中では空になったビール缶がペキペキといやな音を立てる。
思い出すだけで苛々するらしく、眉間に寄ったシワがさらに深く刻まれた。


「彼女も出来ないとか馬鹿にされたからお前の名前を出した」

「あれ?なにその物凄いとばっちり‥凄い火の粉が飛んできてるよ?」

「そしたらバカファルガーがお前のこと嗅ぎ付けて俺から奪おうとしてた‥らしい」

「いきなり自信無さげに‥」

「卒業してからは知らねぇよあんな馬鹿。それがこの間再会してお前のこと聞いてきたからめんどくせぇから全部喋っちまった」


ぐしゃっ、とキッドの手の中で潰れた空き缶と、名無しの心はほぼ同時に潰れた。










私の心はアルミ製




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