自宅に帰った名無しは実家から持ってきた思い出ボックスを引っ張り出した。
引っ越しの時すら中身は開けていないし、だいぶ年数が経っているのでボックス自体くたびれているし、埃も凄い。


「これはローさんをバカにできないレベルだ‥」


蓋についた埃を軽く指で払ってお目当ての卒業アルバムを引っ張り出す。
ローが自分の昔を知っているとしたら学生の頃しかないだろう。

小中のアルバムを引っ張り出して壁にもたれ掛かる。
高校は流石にまだ記憶にあるから高校時代ではないことは確かだ。



「しっかし懐かしいなー‥」



上等の革張りの表紙を開いてアルバムを捲ると、ぺりぺりっと糊が剥がれるような音がして独特の香りが鼻についた。


「トラファルガートラファルガー‥」


教師欄は飛ばして一組からしらみ潰しに探す。
自分のクラスだけ妙に時間がかかったのは、やはり懐かしむあまりだったのかもしれない。

小学校の同級生なんて既に連絡を取っていないし、同窓会の誘いも全て断っていた。
成人式の頃は入社したばかりだったので同窓会なんて昔を懐かしんでいる時間なんてなかった。

今思えば勿体ないことをしたような気もする。



アルバムを一通り見終わって、名無しは疲労が混じったため息を吐く。
同じ歳と聞いていたがそれらしき人物は何処にも載っていなかったし、やっぱりなにも思い出せない。

ローの言う通りダメなヤツなのか、或いはローが誰かと名無しを間違っているのか。


焼きそばパンを好きなことを知っていたところを見ると、あながち間違いと言うわけでもなさそうだが、それにしたってなんの手掛かりもない。



「高校…は違うし」



高校の時はまだ記憶にギリギリ残っているが、たいして目立った存在でもなかったから強い思い出もない。
ローみたいな圧倒的な存在感がある人間を見たら絶対忘れないはずなのに。



「おい」


「ぎゃっ!!」



突然誰もいない筈のドアが開いて声がしたので、驚きのあまり低い声が飛び出した。



「鍵開いてたぞ、馬鹿女」

「…キッド、いくら鍵が開いてても女の子の部屋に無断で入ってきちゃダメでしょ‥」

「女の子?ああ、女の子の部屋はダメだろうな。だがてめぇは女の子の分類には入んねぇだろ」


確かに女の子の分類には入らない歳はしているが、この失礼なことを言う男を何とかしてほしい。

勝手に上がり込んできた上に人のお気に入りのソファになんの躊躇もなくどかっと座って、買ってきたビールを開けて煽る。


「キッド、トラファルガー・ローって知ってる?」


キッドは中学・高校で同じ道に進んで、今は違う大手タイル会社に就職した。
就職した当初は何故キッドが就職出来て自分は出来ないのかよく悩んだものだ。


「トラファルガー」


ローの名前を繰り返したキッドは空になったビール缶をベコッと軽く凹ませて、眉間にシワを寄せた。
気のせいか一気に機嫌が悪くなった気がした。









寅に鈴




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