「やれば出来るじゃねぇか、タイル屋」
「は、はい‥ありがとうございます」
重たい本を持って脚立を登り降りしたせいか、膝が若干笑っている気がする。
なんとか時間内に形だけでも綺麗には出来たが、床にはまだ埃が残っていた。
でもまぁ3時間であの量の本を書架に直しきったのは評価して貰ってもいいとは思う。
「じゃあ次だ」
「えっ?」
「なんだ?」
なにか不満でもあるのかと言わんばかりのローに、名無しははっとして愛想笑いを張り付けた。
片付けの達成感で忘れていたが、あくまでも仕事だった。
労働時間はまだまだ続く訳で、片付けして契約成立、さようならと言うわけにはいかない。
「次は何しますか?」
「事務所の掃除だ」
至って綺麗だと思っていた事務所は一部でしかなかったらしい。
と言うか綺麗なところしか人を通さなかったんだろう。
他のところは書斎同様ごみ置き場に等しかった。
「う、わー‥」
「なにか言ったか?」
「いえ‥片付け甲斐があるなぁと思いまして」
「だろうな、一度も掃除をしたことがない。人が通るところは高校の時の後輩に片付けさせてる」
それで綺麗に保たれていたわけだ。ロー自身片付けが苦手なタイプなんだろう。
後輩も大変な迷惑なんだろうと容易く想像できた。
「お前高校はどこだ」
「私はカイドウです、ローさんはどこですか?」
「俺は四皇だ」
「‥国立じゃないですか」
カイドウもレベルが低いわけではないが、国立の四皇から見れば低い方には入るだろう。
倍率がそれを物語っている。
「たいしたことなかったな、もちろん首席卒業だった」
「そ、それは凄いですね」
自慢したいだけのようにも聞こえるが、正直自慢されても嫌味だと思えないぐらいレベルが違うので頷くしかない。
「お前、ダメなヤツだな」
「え‥なんですかいきなり」
片付けをしていた名無しは突然のローの言葉に顔を歪めた。
別に悪いところなんてなにもなかった筈なのに何故ダメなヤツ扱いなのか理解に苦しむ。
「ここまで言って気がつかないなんて頭が可笑しいとしか思えないな」
「なんの話ですか?」
パイプ椅子に座っていたローは少しオーバーにため息を吐いて、目を伏せた。
「昔‥」
ローが口を開きかけた瞬間、事務所の方からすみませんと声が聞こえた。
その声に面倒そうに立ち上がったローはポケットに手を突っ込んで、首を回しながらいなくなった。
一体なんだったのか理解できずに、名無しも軽く首を傾げてから片付けを再開した。
「なんか、気に触るようなこと言ったかな」
特別何かを言った訳じゃないのにダメなヤツ扱いとは、やはりローは先輩達が言っていた通り気難しい人間のようだ。
2週間だなんて気が遠くなりそうな時間だ。
進まない体内時計
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