「おい」

「は、はい」


プレゼンの緊張などすっかり忘れてぼをやりと考え込んでいた名無しは、ローの言葉にびくりと肩を揺らした。


「またくだらねぇこと考えてたんだろ」

「くだらなくはない…と思います、けど」

「お前が真顔で考え事をするときは8割がくだらないことで残り2割がメシのことだ。そんなだから嫁の貰い手もいないんだろ」

「1割ぐらいはその他として残しておいてくださいよ」


すっぱりと言い切ったローに唇を尖らせて抗議をしてみたが、意見を変える気はないらしく右から左に流されてしまった。

確かに今考えていたことは今更なくだらない仮定での妄想だが、ローが言い切るほど単純には出来ていない気がする。
小難しく出来ているとも言えないが。


エレベーターに乗り込むローを追いかけて慌てて乗り込む。
ずしりとかるくエレベーターが沈んだのは資料をたくさん持っているからに違いない。


「……やる」


ぽいっと投げ捨てるようにローが小さな箱を投げて、箱がふわりとエレベーターの中を舞った。


「わわわっ、いきなり投げないでくださいよ!私そんなに反射神経よくないんですからっ」


箱を取ろうともがいたせいでバサバサと資料が落ち、エレベーターの中に散乱した。
箱自体は無事だったが、床は悲惨な状態でしかない。

それなのにローは相変わらず階数表示を見上げたままで、資料を落としたことにすら興味がないように見えた。
ローらしいと言えばローらしいのだが、冷たいと言えば冷たい。


「指輪っぽい箱ですよね。今日のご褒美に指輪だったりして」


へっへっへっ、と資料を拾いながらもふざけてローの顔を覗き込むと、一瞥されて短い嘲笑を頂いた。ローはいつも通りのローでしかない。


「ただの気まぐれだ」

「……」


あっさりと認めたローに、名無しは拾っていた資料を再び落とした。
あんぐりと口を開けたままの間抜けな顔を見たローは、呆れたようにため息を吐いた。


「一応言っとくが、今日の日付を確認しろよ」

「今日の、日付……?」


呆気に取られたまましゃがみこむ名無しをエレベーターの中に放置したまま、ローは1階で降りていった。


「今日は、4月1日……エイプリルフール…」


ぽつりと呟いた名無しは、自分で呟いた言葉に目を見開いて手の中にある箱と歩いていくローの背中を交互に見た。


「え?嘘?なにが?一体どれが嘘なんですか!?」


困惑する名無しの叫びは閉まってしまったエレベーターの中に虚しく響いた。












エイプリルフールのプロポーズ


「指輪?指輪が嘘ってことなの!?」



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