大切なプレゼンを任せてくれる程信頼してもらっていると喜ぶべきなのか、こんな大切なプレゼンをなんの相談もなく任せるなんてと怒るべきなのか、よくわからないが今言えることは燃え尽きた、の一言だ。


「小さいとか言って本当にすみませんでした」

「まあ、初めての割には悪くはなかった」

「ありがとうございます。寿命5ヶ月は縮みましたけど」


舞台を下りて暫くした今、今更ながら足がガタガタと震えだし、あり得ない程汗が吹き出してきている。
先ほどまでカラカラだった口腔内は無駄に唾液が分泌されており、奥歯がカタカタと鳴る。

こんな大舞台に駆り出されるならもう少し高いスーツを着てくるんだったとほんのちょっと後悔した。


「フッフッフッ、お嬢ちゃんが出てきた時はお利口に勝負を下りたのかと思ったが、そうじゃなかったみてぇだなァ」


未だにバクバクと煩い心臓を押さえていた名無しの上から見下したような声が響いて、思わず顔をしかめる。
特徴のあるその声には嫌悪感しか感じない程だ。

ゆっくりと視線を上げると、ドフラミンゴの顎から見上げるような不思議なポーズになった。
名無し自体小さい方ではないが、ドフラミンゴの身長はそんなこと関係ないぐらいに高い。


「未経験者の名無しに負けたらお前らのプライドはさぞかしズタズタだろうな」

「その台詞はまずうちから仕事を一つでも取ってから言うんだな」


分かりやすいローの挑発に短く笑って見せたドフラミンゴはチラリとサングラスの下から名無しを一瞥した。
相変わらずドフラミンゴの笑顔ほど嘘臭い。喧嘩を売られているのに、正面から受けながら笑っているのだから不気味以外のなにものでもないだろう。

からかいに来ただけだったらしく、言うだけ言ったドフラミンゴは肩を揺らしながら去っていった。


これはあくまで名無しの予想だが、多分ドフラミンゴはローに会社に帰ってきて欲しいのだ。だからいちいち顔を見に来て嫌味を言うのだと思う。


「……」


正直な話、ローの道を一つ塞いでしまったんじゃないのかと最近悩んでいる。
ローがドフラミンゴと完全に対立してしまったのは、名無しが無駄な意地を張ってしまったことがきっかけだ。
あれさえなければまだ冷戦状態で、もしかしたら美術館の仕事も回してもらえたんじゃないかとも思う。



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