今日はローにとっても名無しにとっても特別な日だ。
なんせ今日のプレゼンテーションで仕事を勝ち取れば、一度逃したことのある美術館の仕事ができるのだ。

勿論前の美術館とは違うので立地条件や予算などは変わってくるが、基本的なコンセプトは以前と同じに設定してある。

ローはそんな素振りを見せないが、ここ連日徹夜続きで仕上げていた。今日起きられなかったのは多分このせいだ。


「なんか意外に会場小さいですね」

「ひよっこのクセに生意気なコメントだな」


郊外に出来る大型の美術館だと聞いていたから参加する会社がたくさんあると思っていたのだが、少し遅れて入った会場には思っていたよりも人が少なかった。

素直な感想を口にしたところ、ローが短く鼻で笑って参加許可書を渡された。
付き添いがいないからか、会場では話し声もあまりしない。
ただ一つわかったことは、今回のプレゼンには参加予定ではなかったドフラミンゴの会社、ジョーカーが急遽参加することになったらしい。

参加する会社が少ないのではなく、辞退した会社が多かったということだ。


「……」


まとめられた資料を見ながらちらりとローの方を見ると、ローも名無しの方を見ていたらしく目が合った。
その瞬間、名無しが言おうとしたことがわかったのか、顎でくいっと会場の奥を指す。

それにつられるように会場の奥の方に目をやると、そこには相変わらず奇抜なピンクの上着を着たドフラミンゴが座っているのが見えた。
室内で、しかもプレゼン会場だと言うのにサングラスも通常装備らしい。ドフラミンゴにはもう勝ちが見えているに違いない。

そう思うと姿を見るだけでも忌々しく思えた。


「プレゼン内容は理解してるな?」

「え?それは勿論!勉強のうちですから」


無意識にドフラミンゴを睨み付けていると、資料で額をぺしぺしと軽く叩かれてローの方に向き直る。
額を撫でながら自信満々に頷くと、ローは満足そうにかるく頷いて持っていた資料を名無しに押し付けた。


「ならお前に全て任せる」


今日初めて笑顔という笑顔を見せたローはそう告げた。


「え?」

「今日のプレゼンはお前に全て任せる。勉強の一環だと思って頑張れよ」


資料を二つ手に持っていた名無しはぽかりと口を開けて目を丸くした。
ほら、と言わんばかりに自分の首にかけた許可書を指差したローは見学者と書かれた許可書に嫌な笑顔を浮かべる。



ローは最初から企んでいたらしい。相変わらず人が悪い。


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