キッドから貰った紙は、手書きで書かれた求人だった。
そこら辺にあったメモ用紙に走り書きされた求人には急募の文字。軽作業だとか週休二日とか焼きそばパン支給とか、なかなか魅力的な言葉が並んでいたが、八割は嘘だろう。
片付けは軽作業なんてものじゃないし、週休二日も形だけで休日出勤なんて当たり前だったりする。書いてあることで本当のことといえば焼きそばパン支給ぐらいのものだろう。


あまり好条件でもないのにそれでもニヤニヤしてしまうのは、自分に向けられただけの求人だからだろう。


てっきりローの足を引っ張ってばかりで必要とされていないと思っていたので、また側にいれるキッカケを作って貰えたみたいで、嬉しいのだ。
それが例え雑用だったとしても近くにいる理由があるだけで十分だ。


久しぶりに訪れた事務所の裏口は、雑草で鬱蒼としており何となくホッとする。
綺麗に整備されていたら居場所がなくなってしまう。


「相変わらずドア一つ開けるのに時間がかかるやつだな」


ドアを開けようと決意を固めて掴んだ瞬間、ローの声が窓から聞こえてきて、ぎくりと肩が震えた。
手伝いに来ていたときにもこんなことがあった気がする。


「ろ、ローさん!あの…キッドから求人貰って…」

「面接希望の電話は来なかったけどな」

「……あ」


素っ気なく返された言葉に血の気が引いていくのを感じた。
キッドから貰って嬉しくて2、3日ニヤニヤしっぱなしでアポなしで今日訪ねてきてしまった。


「……」

「こっちは一週間以上待たされてる」

「本当にすみません」

「連絡がないからもう来ないかと」

「えっ」


ローらしからぬ言葉に思わず目を見開いて聞き返してしまった。聞き間違いじゃなければ、居丈高なローから飛び出すことがないような言葉が続きそうな予感がする。


「もう一度お願いします」

「……二度と言うか。入るならさっさと入れ。書斎が散らかってて使えない」


クソッと小さく呟いたローは、不機嫌そうに顔をしかめて、大袈裟な音を立てて閉めて中に引っ込んでしまった。
慌てて追いかけるように事務所のドアを引く。


ドアを開けた瞬間、相変わらずの冷たい空気が足にまとわりついて、何となく笑みが溢れた。













おかえりと寅が吼える



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