コンクリートから吹き上がってくる熱い風はいつの間にかそんなに熱くは感じなくなってきた。


会社を辞めて約1ヶ月。
なにをするわけでもなく、ローの創った建物を見て歩いたり、変わった建物を見学に行ったり。
今まではたいして興味なかったインテリアなんかにも興味がわいてきて、色々と勉強を始めた。


これも全てローの影響なんだろう。別に意識していたわけではなかったが、ローの創り上げた作品を見ていたらなにか勉強をしたい気持ちになるから不思議だ。


2杯目の珈琲に口を付けると、目の前にあった椅子が動いて、そこに待ち合わせの相手だったキッド不躾に座った。
スーツを着込んでいたキッドにはまだまだ暑さが堪えるらしく、短く息を吐いてネクタイを弛めた。


「お疲れ」

「おう」


勝手に手を付けていなかったお冷やを一気に飲み干したキッドは、じろりと名無しの方を睨み付けた。
睨み付けたといっても本人にその自覚はなく、多分本人はちょっと見ただけなのだろう。



「トラファルガーのやつ」

「……うん?」


久しぶりに聞いたその名前に心臓が跳ねて、少しだけ声が上擦った。
雑誌などで名前は見ていたが、もう免疫が薄れてきているようだ。

事務所に行っていた時には何も感じなかったのに、本当に今さらのような気がするが。


「美術館のコンペは落選だったみたいだな。まー、真正面からジョーカーに突っ掛かっていけば当然って言えば当然じゃねぇの」


ただでさえスポンサーがジョーカー寄りだったのにも関わらずコンペ会場で面と向かって喧嘩を売った、とそう言うことらしい。ローらしいといえばローらしいが、建設業界を網羅しているジョーカーに喧嘩を売れば無傷でいられるなんてことはあり得ない。

今回落選したコンペだってドフラミンゴが何かしら手を回したに違いない。そうじゃないとあのデザインが落ちるなんて思えない。多少色目はあるかもしれないが、ジョーカーは基本的に予算の面でしか強味がないようなデザインばかりだ。
勉強の為にジョーカーが手掛けた建物を見たが、駅前の商業ビルを除いては特別秀でた建物はなかった。


「んで?テメェはいつまでそうやってだらだらしてるつもりなんだ?」

「別にだらだらしてないわよ失礼な。今は色々勉強してんの」


適当に頷いたキッドは、名無しが使っていた教材を覗き込んでから一枚の紙をくれた。















秋の匂い


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