ナミは盛られた泡を男前に啜ってから、だんっとテーブルに置いた。
生ビールが綺麗に注がれたジョッキの底から細かい泡がひっきりなしに上がってくる。


「あんた本当に馬鹿じゃないの」


お通しであるタコわさをなんの反応もなく食べたナミは本日13回目にもなる馬鹿じゃないのを吐き出した。
それにたいして名無しは相変わらず謝ることしか出来ない。

自分に非があると言うよりも、自分でも馬鹿なことをしたと言う自覚があるからだ。


「トラファルガーのデザインなんてジョーカーに売っちゃえばよかったのよ!高値で!」


後半にやたら力が入ったのは、多分ナミの本音だからだろう。

ナミはどちらかと言えばケチな方に入る。
クーポン活用なんて当たり前。今日のこの店も急なことだったのにレディース割引の効くお得な店をチョイスしている。

そんなナミに言わせれば、折角ローがいいって言ってるんだから高値で売り付ければ良かったじゃないか、となるわけだ。
勿論ナミの言っていることは間違ってはないし、賢い生き方になるんだろう。


「でも、ローさん本当は自分の考えたデザインのことを大切に思ってるんだよね。駅前の商業ビルのことも本当は諦めきれてないんだと思う」

「は?だからなに?名無しがそれを気にして失業したら元も子もないでしょ?」


馬鹿じゃないの、と言わんばかりの顔で名無しを睨み付けながらビールをぐびぐびと飲んだナミは、おしぼりの上にジョッキをどすんと落とした。


「客に感情移入したら売上は上がらないって何回も…」


畳み掛けるように言いかけたナミだったが、無駄だと思ったのかため息で言葉を濁す。
そしてオレンジ色の艶やかな髪の毛をかき上げてむすっと唇を尖らせた。

客に同情したら自分の首が締まる、とナミには散々言われてきた。でもそんなにうまくいかないのが現実と言うものだ。
やはりずっと目の前にいれば、少なからず感情移入してしまう。

多分営業と言う仕事が向いていないんだろうと思う。


「私、……後悔はしてないの。馬鹿みたいだって自分でもわかってるし、私みたいなのがローさんの味方になってもなんの役にも立たないのもわかってるけど」


一呼吸置いて、名無しはまた自分に言い聞かせるように吐き出す。


「後悔はしてない」


目の前のナミは呆れたような顔で、馬鹿ねと呟いた。












捕食者に恋い焦がれる





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