最近たいして興味がなかった朝の占いを真剣に見るようになった。というか、最近よくないことばかり起こるので神頼みになってきているのだ。
今日のラッキーアイテムは花柄のハンカチ、他の占いでは鏡とも言っていた。
鞄の中には既にそれらがスタンバイしている。
今日こそ良いことは起こらずとも悪いことは起こらないはずだ、と頬を両手のひらでぺちぺちと叩いてから大きく深呼吸をして元気よく玄関のドアを開いた。
安いアパートのドアを開いてみたが朝の爽やかな空気を吸い込んだ瞬間、いっきに粘膜に煙草の臭いが染み付いて、目の前にピンクの世界が広がった。
どうやらラッキーアイテムの効力が足りなかったようで、安アパートには相応しくないぎらぎらしたドフラミンゴがドアのすぐ前に煙草をくわえたまま立っていた。
「……あ」
思わずこぼれ落ちた言葉はドフラミンゴまで届いたようで、気だるげに顔を上げる。
「よう、タイル屋のお嬢ちゃん」
大きな手のひらをひらひらと揺らしながら首を傾げるドフラミンゴは朝日が全く似合わない。
朝から暑いのにピンクのもふもふの上着なんて着ているし、今知り合いの中で一番会いたくない人物だ。もう見てるだけでも暑苦しくて仕方ない。
「……おはようございます」
目の前にいるのに無視するわけにもいかずに、辛うじて声を絞り出す。さっきまでの気合いも絞り出されてしまったようで、なんだか身体に力が入らなくなってしまった。
「わざわざこの俺が返事を聞きに来てやったってのにつれねぇじゃねぇか」
フッフッフッ、と弾ませるように肩を震わせて笑ったドフラミンゴはうつ向いたまま長い指を動かした。
ごつい指輪が填められた長い指は不気味なぐらい滑らかに動く。
「ローさんのデザインが欲しいんですか?」
「それはお嬢ちゃんが考えることだ。俺は何も言わねぇ」
何も言わないが協力しなければ圧力をかけられて自分の首なんて簡単に飛んでしまうのだろう。そこまで馬鹿じゃないから言われなくてもわかる。
「なんの為に欲しいんですか?コンペで勝つためですか?」
じわじわと暑さが空気に混じってきて、遠くの方でセミが元気よく鳴き始める。
夏によく似合う奇抜なサングラスがぎらりと光って、中の鋭い目が名無しの方を睨み付けた。
「それ以外になにか理由があるか?」
ニヤッと口許を大きくつり上げたドフラミンゴは、ローとは違うんだと感じた。
差し出された手を拒否することで無職になるとわかっていても、脳裏に過るローの顔がそれをさせてはくれなかった。
さよなら、夏の日
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