「……おい、大丈夫か。目が死んでるぞ」


朝、若干遅刻はしてしまったが事情を話していたせいかさすがのローも怒ることはなかった。それどころか少し心配してくれているように感じる。

夜通し事情を聞かれ、家の中を隅々まで調べられてからの出社なのに元気な人間がいたらそれはある意味人間じゃあない気がする。


「家の中、もう少し片付けておけば良かったと思いました…」


例え気持ちがしんでいても正直にそれを口にすることには抵抗があり、後悔を口にした。
警察に電話をしたときに言われたことは、家のものを勝手に動かさずに現状維持をしろと言うことだった。

電気を点けて改めて自分の部屋の汚さに気がついて、死にたくなったのは言うまでもない。


「もう荒らされたのか元から荒れてたのかも全くわからないぐらいでした。盗まれたものを探すのが一番大変で」

「日頃から片付けとけよ」

「一日でこれだけ汚すローさんがそれを言うんですか?」


目の前に広がっているのは相変わらずの本の海。
昨日片付けた筈なのにわざとじゃないのかと疑うぐらい本が散乱している。その他にも紙やら定規やら色鉛筆やら。なんで一晩でそんなに散らかるのかがわからない。


「……」


訝しげな顔でローを見つめる名無しに気がついたのか、ローは散らかった部屋の中を軽く見渡してから俺は仕方がないんだと言わんばかりの顔をした。

才能がある人と言うのは基本的に片付けないイメージがある。
色々なところに意識を向けず、一つのことに集中することで爆発的な才能を発揮するんだろうと思う。


だから本当に仕方がないのかもしれない。


「……設計図は、無事でした」


なにを言われた訳ではないが、何となくローが心配しているのが設計図のような気がして少し早口で呟いてた。


「そうか」


それを聞いたローはたいした感動もなく、お決まりの事務的な返事をした。
ローのことだからもっと居丈高な感じで死守するのが当たり前だろみたいな答えが返ってくると思っていたから、何だか拍子抜けした。


「あいつらにとっては所詮勝てればいいだけのくだらない勝負だからな」


どうでもよさそうにそう呟いたローはなぜだか憐れむように薄く笑った。
よくはわからないが、その横顔は妙に艶があって不覚にもちょっとだけときめいてしまった。









鼠、虎にときめく



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