会社用の携帯が鳴ったのは家に帰りついたと同時だった。
鍵を閉めた忘れたことに気がついて慌てて閉めに玄関に戻った瞬間に鳴り出した携帯に気がつかなかったフリをしたかったが、後から言い訳するのがめんどくさかったので仕方なく携帯を取り出して覗き込んだ。
ナミからのメールだったが、案の定内容は明るいものではなかった。要は担当していた物件からクレームが出たと言うものだ。施行する人間と営業をする人間は違うのだが、クレームを処理するのは基本営業だ。
現状を見に行くために明日は会社に寄れという内容のメールだった。
「うー……沈むわぁ」
疲れて帰ってきてやっと安らげると思ったのに、クレームの話を聞いたら急に身体が重くなる。崩れ込むようにソファに倒れ込んだ名無しは返信しないまま小さく唸った。
クレームは会社を育てるとは言うし、勉強になることは勿論たくさんある。が、やはり理不尽な意見も沢山あってやりきれなかったりすることが多い。
そして何よりまたローに言い訳をしないといけないことが一番のストレスだ。
またなんでこの俺が妥協しないといけないんだと言わんばかりのことを言われなくてはいけないんだろう。一対一でつくこと自体が不自然で尚且つ特別だと言うことにそろそろ気がついてくれてもいいと思う。
この間は契約を取りきれずに怒られるし、ジョーカーの取締役には脅されるし、ローからは威圧されるし、キッドからは馬鹿にされるし、厄年を疑うほど最近はついていないことばかりだ。
「しんどい…」
わかりました、とだけメールをナミに返した名無しは着の身着のまま、化粧も落とさずにソファの上で目を閉じた。
昼間に冷房が効きすぎている部屋にいるせいか、夜は身体が冷えきっていて冷房要らずなエコな身体になってしまった。
最近あったいいことはこれぐらいだろう。
じわじわと暖かくなってくる足先に地味な喜びを感じながらこの日は寝ることにした。
化粧を落とさなかったからなんだ。明日ローに言われるであろう嫌味を考えたらたいしたストレスでもなんでもない。
寝たらなんとかなる
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