設計図をしっかりと鞄に詰め、忘れ物がないかどうかを再度確認する。
昔からよく忘れ物をするタイプだったので確認する癖が未だに抜けない。何度確認しても心配になってしまうぐらいだ。
全てが鞄に詰まっていることを確認した後、時計を見る。
終業時間は5時。会社勤めだった時は終業時間15分前には片付けを始めて、5時にはきっちり帰っていた。が、ローの事務所にいるときはそうはいかない。
仕事が多いと言うこともあるが、終業時間前に帰り支度なんかし出したら何を言われるかわかったものじゃあない。
だから事務所を後にするときは30分は過ぎていて当たり前だ。
いつ何があってもいいように詰め込んだ無意味な資料が重たい鞄を肩に掛け、ローに声をかけるために書斎を軽くノックする。
「ローさん、お先に失礼します」
コンコン、とノックの音が廊下に響く。
フル稼働しているであろうクーラーはごうごうと音を立てているが、肝心のローの返事はない。
いつもぶっきらぼうではあるが必ず返事をくれるので微妙な違和感を感じた。
「ローさーん?帰っていいですか?帰りますよー?」
再度声をかけてみるが相変わらず返事はなく、名無しは重たい鞄を持ったまま書斎の前で立ち尽くす。
勝手に開けてみてもいいが、嫌味を言われるのは覚悟しないといけない。
やっと仕事が終わったのにまた嫌味を言われないといけないと思うと気が重たい。
一度大きく息を吐き出してからドアノブを掴むと、ゆっくりとドアを開ける。
いつもはそんなに気にしたことはないが、怒られるとわかっていて開けるのは気分的にだいぶ違う。かなりドアが重たい気がする。
「ローさーん?勝手に失礼しますよー」
少しだけ開けたドアの隙間から顔を突っ込んで部屋の中を見渡すと、椅子に座ったまま微動だにしないローの背中を見つけた。
窓からは少しだけ西日が差し込んでいて、クーラーの寒さも加勢してローのいる場所だけ秋のように見える。
それにしても出勤してきた時に本は全て片付けたはずなのにまたしても散らかり放題になっている。
大きな机を本が埋め尽くし、それでも足りないのか床にも散乱している。
こうやって散らかっていって朝にはとんでもないことになっているんだろう。
今からすでに明日の朝が憂鬱になってしまう。
とりあえず一向に起きる気配のないローは無理に起こす訳にはいかずに、付箋に一言書いてドアノブに貼り付けて帰ることにした。
外はまだまだ暑そうだ。
虎の居ぬ間になんとやら
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