そもそも名無しが設計図を持っている意味はない。
ただのタイル屋が設計図なんか持っていても宝の持ち腐れもいいところだ。

無意識で盗み見しようとしていた自分が一番悪いのだが、それを逆手にとって渡してしまうなんてローは底が知れない。


「私の良心を試してるの?もうやだ!」


渡された時の状態で設計図を握りしめたまま窓を拭いていた名無しは、突然吐き出すように叫んで雑巾を床に叩きつけた。
好きにしろとか、関与しないみたいなことを言われたところで名無しにはどうしようもない。


「好きにしろって言うなら私に爆弾を持たせないで欲しい!」


ドフラミンゴの狙っている設計図であり、ローが寝不足になってまで書いた設計図。
そんな重たいものを持っているだけでも胃が痛くなってくる。
丸まった設計図を強く握ると、少し真ん中が凹んでしまって慌てて力を緩めた。


ローの事務所に来るようになって1週間程度しか経っていないが、色々ありすぎて1年は通っているような気がしてきた。


ローは少し自己中ではあるが、悪い人ではない。
ドフラミンゴを見てしまったからそう思うのかも知れないが、何だかんだできっちり定時には帰してくれるし、焼きそばパンをくれたり。


「焼きそばパンくれたり…しかもハートのパン屋さんの焼きそばパンだったし、それも出来立てだったし」


ぼそぼそと口を動かしながらうつ向いた名無しは、悪い人じゃないという根拠が焼きそばパンのことしか浮かばないという深刻な状況に追い込まれていた。


「……いや、悪い人じゃない…はず」


よくわからない根拠のもと、一人で頷いた名無しは、握りしめていた設計図に視線を落として静かに息を吐き出した。


ドフラミンゴを見て思ったが、本当に滲み出る悪徳臭というものは普通の人間にはそう簡単にはいない。
ローもかなり悪そうな顔をしていると思ったが、ドフラミンゴと比べたら小虎ぐらいのものだろう。
つくづくそう感じた。


こういうとき、ナミなら自分に優位になるような判断が瞬時にできるのだろう。
でも自分はナミのように賢くはないし、上手に取り繕うことは出来ない。

握りしめていた設計図を持ってきていた紙袋の中に突っ込んだ名無しは、とりあえずローからなにか言われるまでは黙って持っていることを決めた。
ナミに言ったら馬鹿にされて笑われそうな決断だが、これ以上考え込むと寝込んでしまいそうなので諦めた方が身のためだ。






小虎の檻か猛禽の檻か



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