一通り部屋を掃除し終わり、一息ついたところでお弁当を食べた。一人で食べると割りと早く食べ終わる。
ペットボトルに詰め替えてきた麦茶を飲み干してから会社に電話をしたら、案の定罵声と説教を頂いた。


食べたばかりの昼食が戻ってきそうなぐらいストレスだ。



「部屋と同じぐらい辛気臭いな」

「すみません…、ちょっと会社に戻らないといけなくなって。掃除は一通り済ませましたからまた用があったら」

「馬鹿言え。お前の時間は俺が買ってるんだ。勝手に私用を混ぜるな」



名無しの言葉を遮ったローは、今にも舌打ちしそうな顔で名無しの申し出を突っぱねた。
私用と言うよりも社員である以上会社の命令が一番だ。
じゃなければ、こんなところにいない。

上司には一度戻ってこいと言われるし、営業先のお偉いさんには戻るなと言われるし、頭が痛くなってきた。
空になったペットボトルを弁当袋に押し込んで、眉間を押さえて俯く。



「…そこを動くな。こっちから電話をする。いいな、勝手に会社に戻ったらお前の会社とは今後一切縁を切る」


有無を言わせない態度でそれだけ告げたローは、頭を抱える名無しを残したままいなくなった。


そんなローが戻ってきたのは、思ったよりもすぐだった。
本当に電話をしたのかと疑うぐらい早かったが、そんなことが口に出来るほど神経は太くない。



「仕事が終わってから会社に寄れ、向こうもそれで納得した」

どうせ怒られるなら勤務時間内のほうが名無し的には嬉しいが、これは社畜の運命だと運命だと割り切るしかない。

クーラーが効きすぎているのか、それとも気持ちの問題なのか些か寒い。
窓の外は風一つ無いようで照り付ける日差しが眩しいぐらいだというのに。


「わかりました。午後からは何をしたらいいですか?」


視線を窓の外に向けたまま、捲り上げていた袖を下ろす名無しは喉まで出かかっていたため息を飲み込んで、ローの方に向き直る。
目に焼き付いた日差しのせいで、ローの表情を上手く読み取ることが出来ない。


「…事務所にいろ。誰が来ても絶対に通すな」


暫く考えてから事務所の方を親指で指し示したローは、気のせいかいつもよりも顔色が優れないように見えた。

まだ目が馬鹿になっているのかもしれない。


「その絶対に例外はありますか?」

「例外があるなら絶対とは言わない。もう少し頭を使うんだな、タイル屋」


世の中そう正しく言葉を使う人間はいない。絶対、と言われていても例外はあるものだ。
それで何度怒られてきたか。


「わかりました、絶対に通しません。石油王が来ても」


確認するように繰り返すと、ローは口角をつり上げて満足そうに笑う。


「いい返事だ、80点だな」


初めての高得点に名無しも思わず笑ってしまった。
実は案外素直な人間なのかもしれないと思ったが、多分これは一生心の中眠ることになるんだろう。










凶暴な寅は正直者




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