「バカファルガー!てめぇ人を朝から呼び出しといていつまで待たせるつもりだ!」

「キッドに仕事持っていかれるなんて…」


ローの足にしがみついていた名無しを見て、ドアを蹴り開けて入ってきたキッドが固まっていた。
この事がバレたらきっと怒られる。始末書ものかもしれない。ひたすら愚図ですみませんとか、今後はこのようなことを起こさないように気を付けますなんてことを書き綴らなくてはいけないに違いない。

しかもよりによってキッドの会社に持っていかれるなんて、失態もいいところだ。



「なんで名無しがここにいるんだ?」

「それは、その」

「このタイル屋がどうしても注文が欲しいらしくてな、試してやった」


訝しげな顔でローの足にしがみついている名無しを見たキッドは、なんとも言えない表情を浮かべながら頭を掻いた。

キッドの額にじんわりと浮き出した汗が外の暑さを物語っている。


「名無しは関係ねぇだろ」

「仕事上では関係があってもおかしくないだろ。設計士とタイル屋だ」


暑さで苛々しているのか、キッドの顔の険しさはいつもの比じゃない。
いつも険しい顔だが、ここまでシワの寄った顔は初めて見た。
昔から因縁の関係だったらしいので、それも一部の原因だったりするのだろう。


「ほらよ、お望みのサンプルだ。このクソ暑ィ中届けさせたんだ、手ぶらじゃ帰らねェからな」

「それならそれ相応の態度をとってみろ」


重たそうなサンプルを詰め込んだ鞄を高そうなソファに放り投げたキッドは、とてもじゃないが営業に来たとは言い難い態度だ。
ある意味とても羨ましい。


「おいタイル屋、仕事に取りかかれ」

「あ、はい。了解しました」


ゴミと化した発注書を拾い上げた名無しは、ローの足に絡めていた手を離し立ち上がった。
もともと棚ぼたみたいなチャンスだったので然程悔しくはなかったが、この成績をキッドに取られるのは異様にムカつく。
部屋を出る間際にキッドを軽く睨み付けたが、睨まれた本人はたいして気にした様子もなく、面倒そうに頭を掻いていた。



床に散らばった自分の化粧ポーチやらハンカチを鞄に詰め込んで、ため息を吐く。
ぶらぶらと鞄をぶら下げながら部屋を出る。

会社にもう一度電話をして、さっきの話は無かったことにしてもらわないといけないのだが、もう憂鬱で仕方がない。
愚図だと言われるのは目に見えてる。


ポケットに無造作に詰め込んでいた携帯に触れてから、また大きくため息を吐いた。












棚から落ちてきたぼた餅を横取りされた




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