考え込んでいたせいで、古い本を数冊落とした。
ばさばさと無惨に落ちた古い本からは塵がこぼれる。


名無しがローの会社に来て一番にすることは、プライベートの書斎の整理だ。
昨日あれだけ必死に片付けたのに、朝の時点ですでに本が机の上で雪崩を起こしそうなぐらい積み上げられていた。
ここまでくると意図的に積み上げているんじゃないかと疑ってしまうレベルだが、積み上げられている本は全て読んだような形跡がある。

本の所々にブックマーカーが引っかけられているところを見ると、浮気性であっちこっち読み漁っているのだろう。
無造作に引っ掛けられているブックマーカーすらもブランドのものばかりだ。

シンプルな落ち着いたシルバーのブックマーカー。先端が鉤爪のようになっていて、いかにも高そうな感じがする。丁寧に扱っていないところを見ると金が有り余って仕方がないのが目に見える。


「…お前みたいなやつが本読むのか?」

「ひっ!」


古い本に引っ掛けられたブックマーカーを見ていたところ、後から唐突に声をかけられて、拾い上げたばかりの本をまた落とした。
後ろからの視線が厳しくなった気がする。



「すみませんっ!あの…素敵なブックマーカーだなと思って!すぐ片付けます!」


手のひらで古い本の表紙の埃を払いながら腕の中に抱え込むと、ローは机の上から設計図らしきものを引っ張り出してくるくると丸めた。
あの本だらけの机で仕事をしているのが驚きだ。


「気に入ったならやる。挟む本があるならな」


馬鹿にするように笑ったローに即言い返そうかと思ったが、考えてみたら挟めそうな厚い本など持っていないことに気がついて直ぐ様唇を噛んだ。


「本持ってないので、遠慮しときます…」


もともと貰う気はないが、名無しが分厚い本を持っていないということをわかっていて言ってくるところが何とも言えない。


「気にするな、ユースタス屋の知り合いなんてその程度のヤツがゴロゴロいる」


丸められた設計図でポコンと頭を軽く叩かれて、ハッとした。
今確かにローはキッドの名前を出した。どういう理由でこんなことをさせているのか聞くなら今しかない。


「あの、キッドの」


慌てて本を抱えたまま立ち上がった名無しの言葉に、ローは眉間にシワを寄せて首を傾げた。



「誰だ?ああ、ユースタス屋か?」

「そうです。ユースタス…さんの彼女じゃないですよ、私」


腕の中でグラグラとバランスを崩しかけている本を整えながらローの顔を見ると、ローは怪訝そうに顔をしかめて、設計図で肩を叩いた。


「その話が仕事になんか関係あるのか?」

「ないです」

「ならまず片付けてから無駄口は叩くんだな、タイル屋」


見下すように笑いながら出ていったローは、キッドの話なんてどうでもよさそうな顔をしていた。
考えすぎだったような気もしてきた。








先走り鼠は袋の鼠



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