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モビーは朝から騒がしかった。
それもその筈、今日は家族全員が愛する親父の誕生日だ。

宴の準備にも気合いが入りまくっていて、4番隊なんて完全に殺気立っているくらいだ。
3日前ぐらいから下準備をしていたし、一番の見せ場だ。失敗するわけにはいかないのだろう。


「死にたい」


そんな殺気立った4番隊に混じって隅っこの方で頭を抱えていたなまえは、目の前にある黒い物体にため息を吐いて頭を抱えていた。

いつも男に混じって馬鹿なことばかりしているから娘らしくクッキーでも焼いてプレゼントしようと思ったのだが、そう簡単に料理の神様は降臨してくれない。
当然クッキーは丸焦げ、オープンからは黒い煙が立ち上がり、焦げ臭さが染み付いたとサッチに拳骨を頂いた。

そして今、隅っこで一人反省会中というわけだ。


女子力はゼロ。世間の女性より秀でたものと言えば少しばかりの筋力ぐらいのものだ。
常に料理を作って貰う立場だったのでまともに調理場に立ったことすらなかったのだから、丸焦げになってしまったことは必然と言っても過言ではない。

第一段は生焼けだったので、用心して焼きすぎたのが原因だろう。

まさかここまで酷いとは自分でも思っていなかった。


「別にプレゼントを用意しとくべきだった」

「自分の腕を確信しすぎだよい」

「煩い!マルコだって腐ったバナナみたいなケーキのクセに!!」

「中身で勝負すんだよい!テメェと一緒にすんな!」


萎れてしまったケーキを持ったマルコと炭のようなクッキーを持ったなまえは、お互いの作品を見て肩を落とした。


「どうするよ、これ」

「どうするもなにも、どうしようもねぇだろうよい」


ちらりと二人で4番隊の方を見ると、豪華絢爛な料理が沢山並んでいて更に打ちひしがれた。

そもそもマルコが親父の誕生日には世界に一つだけのケーキを作るなんて自分だけ特別な感じをだしていたのが悪い。
ついつい名乗りを上げたくなるような状況にまんまと乗ってしまった。

そして気がつけばプレゼントは世界に一つだけの手作り料理に決まっていた。


「親父、誕生日おめでとう!!」


わあ、と一気に盛り上がる甲板でなまえはびくりと肩を竦ませた。
なんの手立てもなく、炭のようなクッキーを包んでしまったなまえは今世紀最大のピンチにダラダラと冷や汗を流す。

隣の隣ではマルコも微妙そうな顔をしている。


次々に自慢のプレゼントを渡していく家族達を後目に、気まずさだけが募っていく。
本来ならいの一番に渡しに行きたいのだが、笑顔で渡せるような代物ではない。


「マルコとなまえはどうしたァ、人の誕生日にシケた面しやがって」


グラララ、と上機嫌に笑っていたニューゲートが視線を少しだけ下げて二人を見る。


「親父…実は、」

「プレゼント手作りしたら大失敗して炭になっちゃって」

「俺のは空気の抜けたバナナみたいになって」


おずおずとお互いの顔を見ながら口を開いたマルコとなまえにニューゲートは自慢の髭を撫でながら眉を歪めた。


「さっさと寄越さねぇかハナッタレ共。そいつは俺のもんだろうが」

「あげたいのは山々なんだけど、正直食べられるようなものにならなかったの」


他には準備してないし、と目を伏せたなまえは窺うようにその大きな身体を見上げた。


「親父が食ってどうかあったら俺はもう生きていけねぇよい」


箱を持ったままガタガタと震えるマルコとなまえに、ニューゲートは短くため息を吐いて酒を呷った。


「愛する息子と娘が作ったもんでどうにかなるほど、老いぼれちゃあいねぇよ!わかったらさっさと笑顔で祝わねぇか」


来い、と言わんばかりに広げられた腕にマルコとなまえは顔を見合わせて、持っていた箱を軽く握りしめた。


「親父ィィ!格好いいよーっ!!誕生日おめでとう!!」

「てめっ、抜け駆けすんじゃねぇよい!」


広げられた腕にしがみつくように駆け寄るなまえを見て、マルコも慌ててニューゲートへ駆け寄った。


「親父ぃ!格好いいぜ!」

「うをぉぉぉ!俺も抱き締めてくれ!!」


それを見た他の家族も我慢できなくなったらしく、大きな腕の中に飛び込む。

わらわらと周りに集まってくる家族に、ニューゲートは少し困ったように笑った。


「おいおい、こんなハナッタレ共をおいておちおちくたばるわけにはいかねェじゃねぇか」


グラララ、と上機嫌に笑うニューゲートは丸焦げになったクッキーと萎んでしまったケーキの箱を愛しいそうに軽く叩いた。



親離れ?なにそれ?美味しいの?

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