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爽やかな青空。そして暖かく清々しい風。
絵に描いたような美しい天気のもと、することはただ一つ。
勿論昼寝だ。

誇りとプライド、信念の表れであるコートを青芝の上に敷いて、その上にごろりと横になった。

ぽかぽかと暖かい日差しを浴びながらうつらうつらしていると、芝を踏むような音が聞こえて身構えようとした瞬間。


「ごふっ!!」


うつらうつらしていたと言うのもあるだろうが、将校クラスの鳩尾に易々と打ち込んでくるのは、一人しかいない。


「おぇ…」

「ああ、海軍さんごめんね。手が滑った」

「またお前なの…ハルタ…」


ハルタ、と呼ばれた小柄な男は無邪気な顔をした少年だが、実際のところの年齢は結構いっている。
なんせあの最強で名高い四皇、白ひげ海賊団の12番隊隊長を名乗るぐらいだ。そう若いはずがない。

海軍の中でも白ひげの家族には決して手を出すなとまで言われているほど団結力が強く、世界的影響も大きい海賊団だ。


「…いくら均衡を保つためとは言え、ここまでされて黙っていないといけない理由が見つからない!!」


こんな悪戯紛いのことをされだしたのがいつだったかは正確に覚えていないが、最近はハルタの顔を見る度に痣が増えるという変な比例図まで出来上がってきている。
それでもなまえが黙っているのは、均衡の為と圧倒的な実力の差があるからだ。

理由としては後者の方が大きいかもしれない。


おちゃらけてはいるが、真剣に対峙したら腰にぶら下がっているサーベルが戸惑う事なく喉元に突き刺さるだろう。


「あのさ、今日俺の誕生日なんだよね!」

「いくつ?」

「教えない」

「なんてこった」


自分で話を振ってきたくせに、教えないなんて女の子のいくつに見える?と同じくらい面倒臭い。
勿論そんなこと面と向かっては絶対に言えないが。


ハルタは可愛らしい顔や出で立ちをしているが、中身は凶悪な海賊そのものだ。
人が嫌がることを平気でするし、懸賞金だって他の海賊なんかとは桁違いだ。


「誕生日だからプレゼント頂戴」


なまえの目の前でにっこりと笑いながら両手を差し出して首を傾けるハルタは、不気味なぐらい機嫌がいい。
こんなときはあまり挑発はせず、匍匐前進で逃げるのが一番だ。


「プレゼントになりそうなものがないからまた今度……」

「あるじゃん。ほらこの絨毯とか」


ハルタがにっこりと笑ってなまえの尻の下に敷いてある外套を指差す。


「NO絨毯」

「別に高いものじゃないでしょ」

「そういう問題じゃなくて」


ハルタの無茶振りは今更だが、外套を寄越せと言われるとは思っていなかった。
まあ精々小指差し出せとかその程度だと思ったが、まさかのまさかだ。


「いいじゃん!俺がわがまま言えるのはなまえだけなんだから」

「嘘ばっかり」

「なんでさ」

「海軍にわがまま言ってどうすんの」

「わかってないなぁなまえは」


呆れたように呟くと、ハルタも同じように肩を竦ませて小馬鹿にするようになまえの両頬を右手で押し潰すように掴んだ。
無様に突き出された唇が鼻の下から見えて、ちょっとだけ虚しい。


「そんなんだから彼氏が出来ない悲しい人生送るはめになるんだよ」

「男だけが全てじゃないし別に出来ないわけじゃ」

「だから俺が貰ってあげるって言ってるのに」


掴んだ頬をぶるぶると揺らしてくるハルタになまえは顔をしかめる。これでもかといわんばかりに眉間にシワを寄せたが、ハルタにはまるで効果がないようだ。

それどころかハルタは楽しそうに笑っている。


「からかわないでよ!だから海賊って嫌いなのよ!」

「からかってないよ」

「嘘つき」

「なまえって失礼だよね。人の誠意をそんな風に踏みにじっていいの?」


海軍のクセに、と顔を近づけて笑うハルタになまえは言葉をつまらせた。
すぐそばにあるハルタの顔に不覚にもドキッとして、顔が赤くなるのを感じた。


「…別に踏みにじってなんか、」

「ま、嘘だけどね」


強く掴んでいた頬を突き放すように離したハルタは、からかうように舌を出して笑う。


「…やっぱり嘘じゃん!」

「嘘最高」

「そんなハルタは最低だよ。もう黒歴史になるぐらい恥ずかしいよ」


少しドキッとしてしまった自分は、きっと何気ない時に思い出して死にたくなるに違いない。


「なまえが俺のこと海賊Aとしか見てないのが悪いんだよ。たまには俺のことも思い出したら」


吐き出すようにざまーみろ、と舌を出したハルタはぐしゃぐしゃとなまえの前髪を乱すように撫でる。そして露になったおでこをぺしっと叩いた。


「いたっ」


反射的に目を閉じた一瞬で、ハルタの姿は目の前から居なくなっていた。
慌てて振り返るとだいぶ遠くにいて、面倒そうに振られている手がなんとなくハルタらしいと思ってしまった。


「嘘なんかより拐うぐらいの気概を見せなさいっての」


ひりひりするおでこを撫でながら呟いたなまえは、口を尖らせて目を伏せた。
















来年こそは頑張ります


素直になれないのは要らぬ気遣いのせい。




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