その日彼はとてつもなく不機嫌だった。
理由はよくわからないが、いつもの輝かんばかりの元気な笑顔はなく、眉間に似合わないシワを寄せ唇をこれでもかと言わんばかりに尖らせている。その姿はまさに「俺は怒っている!」と全身で表しているかのようだ。
「エース?」
偵察に赴いていたため、新しい一年が始まったその日に間に合わず一日遅れてしまったこともあり、なんとなく祭りに乗り遅れた感がある。
それプラス末っ子のこの不機嫌丸出しの表情だ。新年早々不穏な空気だ。
「お土産の肉気にくわなかった?」
「別に」
「具合悪いとか?」
「そんなんじゃねぇよ!」
モビーでは新年を激しく祝った跡があり、潰れて寝ている兄弟や未だに飲み続けている兄弟がたくさんいる。
それなのに目の前で不機嫌全開な祭大好き末っ子エースは珍しく素面。
状況は全く読めない。
「……あーっ!なんか言うことあんだろ!俺にっ」
イライラと地団駄を踏むエースになまえは首を軽く傾げて周りに目を泳がせた。
「あ、あけおめー」
帰ってきてすぐに言ったと思ったが、聞こえていなかったのかもしれない、と控え目に口を開く。
するとエースからも周りの兄弟からも大袈裟なため息が聞こえた。
そしてそれに続いてエースの不満が詰まった舌打ちが追い討ちをかける。
「あー……えーと、新年早々この空気は止めようよ」
どよーん、とした重たい空気が辺りに広がって失望したような顔で兄弟達がなまえの方を見る。
偵察から久しぶりに帰ってきたのにこの反応は結構凹む。折角久しぶりに会えたのに好きな人に舌打ちまでされるなんて。
と、そこまで考えて一つだけ思い当たることにぶち当たった。
「まさか、その…あれか」
「おう」
気まずそうになまえが目を泳がせながら聞くと、エースの眉間からシワが少し減った。
そうだと頷くエースになまえの身体から冷や汗が吹き出る。
どうやら偵察に行っていた間に、なまえがエースのことを好きだとばらしたやつがいるらしい。間違いなくサッチだろう。
さっきから船内に身を潜めながらニヤニヤしている。
「聞きたいわけ?わざわざ」
知っててわざわざ言わせようとする辺りサッチの入れ知恵臭いが、ある意味脈有りと捉えても良さそうだ。
「なまえに言われたいに決まってんだろ」
少し恥ずかしそうに口を尖らせたエースになまえは大きく息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。
周りが静まり返った気がするのは緊張のせいだろう。
「……エース」
「おう」
「……大、好き!」
「誕生日おめでとうエース!!」
なまえの渾身の告白と、周りの誕生日おめでとうコールはほぼ同時だった。
「えっ」
「え…っ」
誕生日おめでとうコールに驚いたなまえと、大好き宣言に驚いたエースから溢れた言葉に周りがまた静まり返る。
船内に潜んでいたサッチが大きなバースデーケーキを運んでこようとしていて固まっているのが見えた瞬間、死にたいと心の底からなまえは思った。
今年終了のお知らせ
「……違うの、今のやり直しさせて…」
「いや、俺的には全然嬉しいけど」
「ケーキに顔を埋めて死んでしまいたい…」