外は久しぶりに雨が降っていて薄暗い。
灰色の雲の隙間からたまに電光が漏れて、海も荒れているのが易々と見てとれた。
海軍本部はわりと天候穏やかな場所に建っているせいか、ここまで荒れることは本当に珍しい。
「嫌だよねェ〜…雨ってのは」
妙に間延びしたような声につられてあくびが出てきそうになって、慌てて無理矢理飲み込む。
間延びしたような喋り方は生まれつきなのだろうし、悪気はないのだろうが、こんな天気の日に聞くと妙に眠気を誘う。
「珍しいですよね、ここがこんな天気なのは」
ばちばちと窓に雨が叩きつけられて大きな音を立て、気分をよりいっそう重たくする。
ただでさえ最近海賊の動きが活発になってきていて緊張状態が続いているのに。
「天気ぐらいはスッキリしていてほしいものですよね」
「そうだねェ〜、まぁ天候ばっかりはいくら大将でもどうにもできないからねェ〜」
困ったように眉をハの字に歪めたボルサリーノはいつも通り革張りの大きなエグゼクティブチェアに腰かけた。
自らの趣味で最近買ったという高級そうなそのイスはなんとなくボルサリーノに馴染んできているような気がする。
浅く腰かけたままぺらぺらと書類に目を通していくボルサリーノはよく脱走するどこかの大将や仕事が趣味みたいな大将とは違い、ほどよく仕事熱心だ。
ただ飄々としているので掴み所がない。怒っているのも分かりにくいし、感情が薄いというか分かりにくいというか。仕事をする上でも困ることは多々ある。
ボルサリーノの下について5年は経ったが、今だってなにを考えているのかさっぱりわからない。
最近では理解することは諦めている。
「あァ、そう言えばなまえにこれあげるよォ〜」
ボルサリーノに倣い職務をこなそうと書類に視線を落とした瞬間、名前を呼ばれて不意に顔を上げる。
仕事をしだしてからボルサリーノの方から声をかけてくるなんて随分と珍しい。
「これ、なんですか?」
たいして可愛いげのない赤いチェックの紙袋を差し出すボルサリーノに訝しげに首を傾げたなまえは恐る恐るそれを受け取った。
なまえがつかんだのを確認してからボルサリーノがゆっくり手を離す。見た目と大差無く軽いものだった。
「誕生日、なんだよねェ…」
しみじみと呟くボルサリーノは、たいして興味ないような顔でなまえの方を見てため息を吐いた。
乙女のように尖った唇からは想像出来ないぐらい顔はおっさんだ。
「私の誕生日はまだですけど……」
渡された意味がわからないと首をさらに傾げるなまえに、ボルサリーノも同じように首を傾げた。
「わっしの誕生日だよォ〜」
なにを言ってるんだと言わんばかりのボルサリーノになまえは狼狽えながらも軽く頷いた。
ボルサリーノの誕生日に、何故自分がプレゼントを貰うのかが全く理解できないが、経緯を説明してはくれなさそうだ。
何事もなかったかのようにまた書類に視線を落とすボルサリーノの空気に完全に紛れ込めずにぼんやりと立ち尽くす。
「あの、プレゼント…ありがとうございます…よくわからないですけど」
なんとなく納得いかないまま頭を軽く下げるとボルサリーノがなまえを一瞥してから浅く頷いた。
ボルサリーノの考えが理解できないのは今さらだ。
中身は渋味のある深緑の手袋で、次の日付けて行ったら何故かボルサリーノの機嫌がちょっぴりよかった。相変わらずよくわからない上司だ。
うちの上司