ばたばたと走り回る喧しい音が徐々に近づいてきて、部屋の前でピタリと止まる。
この耳障りな喧しい足音を立てる奴は一人しかいない。使用人として雇っているなまえだ。
使用人として雇っているはずだが、不思議なことに仕事をしているところは一度も見たことがない。
好きな音楽を優雅に聞いていても、それが台無しになるくらいなまえの足音は煩い。
今はドアの前で息を整えているのだろう。
「聞いてくださいよー若様!ベビーにまた彼氏が出来たらしいですよ!」
バンッと大袈裟に音を響かせて部屋に入ってきたなまえはとてもじゃないが使用人には到底見えない。手を招くようにヒラヒラと揺らしながら近づいてくるところなんて完全に近所に住む噂好きの年増だ。
無駄話が好きな女はなまえを置いて他にはいないだろう。
「お前は相変わらずうるせぇ奴だな」
物怖じしないなまえが気に入って使用人として雇ったが、仕事もまともに出来なければ、口も軽い。
ベビー5が男に騙されたら必ず一番に報告に来る。壊されるのをわかっているのに報告に来ることからベビー5から2番目に恨みを買っていると思われる。
「でも今度はイケメンらしいんですよねー!無職でギャンブラーなんですけど」
なまえの話でベビー5が頬を赤らめながら喜んで貢いでいるところが容易く想像出来た。
「それでそれでーこれも聞いてください」
再度手をひらひらと揺らしながらテーブルに置いてあったお菓子を口いっぱいに頬張るなまえは、何度も言うが使用人だ。
使用人がボリボリとお菓子を頬張っているのは違和感がある。毎回建物を破壊するほどのベビー5ですらこんなに行儀の悪いことはしない。
「ふぃあふぁんてはまがれすれ」
「フッフッフッ、食うか喋るかどっちかにしねぇか」
「んぐ、ディアマンテ様がですねー」
慌ててお菓子を飲み込んで口を開いたなまえは慌てたようにまた口を開いて咳き込むように言葉を連ねる。お菓子のクズが飛んでいることには気がついていないのか、それとも気にしていないのかは定かではない。
散々無駄話をしたなまえは、さも仕事をしたと言わんばかりの顔で立ち上がり、そして大きく息を吐いた。
「あ、誕生日おめでとう若様」
今思い出したと言わんばかりに手を叩いたなまえは、ご飯の用意が出来たみたいですよと付け足した。
そう言えば今日は誕生日だった。
あ、誕生日おめでとう
「なにしに来やがったのかと思えばそんなこと言いに来たのか?」
「別にそうでもないです。あくまでも日常会話のオマケですよ」