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案の定待ち受けていたのはいつもの日々。
サッチとは会話はないし、ふらふらと居なくなってしまうから目も合うことはない。
企画をしていた時は探す理由もあったが、今はそれもない為探すことはしない。
それなのにいつの間にか視線がサッチを探してしまう。
いつからこんなに仕事に集中できない不真面目な人間になってしまったのだろうか。
前までは恋愛に目を輝かせている女の子を馬鹿にしていたが、もう二度と馬鹿にできない。
まかさ自分がこんなに恋愛体質だったなんて、恥ずかしいにも程がある。
目線を書類に無理矢理戻して、ため息を吐いた。
頭を抱えながらシャーペンではしっこに落書きなんてしながら、丸まっている付箋をシャーペンで突っつく。
捨てるに捨てられないサッチの番号が書かれた付箋だ。
何度も捨てようとは思ったが、何となく捨てられなくて机のはしっこに丸まって貼り付けられている。
「名無し、これの資料取ってきてくれよい」
「は、はい」
マルコの声にシャーペンを放り投げて席を立つと、マルコの持っていた書類を受け取りそのまま資料室に向かう。
この会社、でかいだけあって資料も莫大な量を抱えている。
最近ではパソコンで、と言う声もある中やはり紙に頼ってしまうのは社長の意向で、探すのも一苦労だ。
書類に目を通しながら大体の目星をつけて探さないと日が暮れてしまう。
ずらりと並ぶ棚を抜けてお目当ての棚を探しだして、指で確認しながら手に取っていく。
腕に乗せられていく資料がズシリと重く、短くため息をつきながら次々に積む。
前まではマルコの為の仕事だとテンションが上がったが、今日はさっぱりだ。
「名無しちゃん、大丈夫?重たくねぇの?」
「さ、っちさん」
ひょいっと資料を名無しの腕から取り上げるサッチにびくりと肩を揺らす。
「マルコもこんな仕事女の子に頼まなくてもいいのにな」
困ったように笑うサッチは、あ‥と小さく呟いて頭を掻いた。
「手伝わない方がいいか?名無しちゃんはマルコから頼まれてると喜ぶもんな」
「い、いえ。助かります‥ありがとうございます」
この間あんなに失礼な事を言ったのにいつも通りのサッチには感心してしまう。
嫌いなんて面と向かって言われたら普通なら口も聞きたくないと思うはずなのに。
やっぱりサッチは優しい。
「じゃあ、近くまでな。マルコには名無しちゃんが渡せばいい」
そしたら誉めて貰えるだろ?と笑うサッチに、胸が締め付けられる。
確かにマルコのことは尊敬しているが、それ以上でも以下でもない。
名無しがサッチに向ける感情とは、全く違ったものだ。
誉められるのだって、今はマルコよりもサッチに誉められたいと思う。自分でも笑ってしまいたい。
「…そうですね」
嫌いと言った手前、なにも言い返せない。
サッチの優しさすらも痛いぐらいだ。
素直な性格ならば、きっと否定して気持ちも言えるのだろうが、そんな心の持ち主じゃないことぐらい自分でも自覚している。
だから押し殺すしかない、元はと言えば自分が撒いた種なのだから。