07
結局、完徹。
一睡もせずに迎えた企画提出日に名無しは頭を抱えた。
出来上がったのは出来上がった。
でも納得できるような仕上がりではない。
あくまでも出来上がっただけで粗はあるし、もっともっと詰めたいところだが時間は待ってはくれず、マルコへと提出する。
小会議用の個室でマルコとサッチと名無しは顔を見合わせるように座り、お互いの企画を見せ合う。
「俺の意見は置いといて、名無しはどうだい」
ぺらりとサッチの作った資料を見る名無しは、唇を噛み締めて目を伏せた。
自分では到底敵う内容じゃない。
多分完璧に仕上げても勝てる気がしない。
「…サッチさんの企画がいいと思います」
「俺は名無しちゃんのが斬新でいいと思うけどな、まぁ相手は選ぶけどたまにはこう言うのもいいんじゃねぇの?」
サッチの言葉がずきずきと傷心に響く。
ここまで実力の差があるのに、下手に持ち上げられても傷は増える一方だ。
「そうだねい、名無しのも悪かねぇけど‥やっぱりサッチの企画の方が上だよい」
「はい」
「名無しのはサッチに負けたくないって言うのが全面に出すぎてる」
「はい」
わかってる。
自分でも焦燥感に気がついていたし、なによりサッチに劣るのが嫌で堪らないのは事実だ。
それが企画にも現れすぎてしまった。
「サッチの企画でいくよい、名無しもいいかい」
「はい」
「じゃああとは二人で仕上げて提出な」
とんとん、と資料を机で揃えたマルコに名無しが小さく返事をする。
サッチは納得いかないとばかりの顔だが、今回ばかりはサッチの実力を認めざる得ない。
数時間の仕事に名無しの睡眠時間と食事の削った渾身の仕事はジャブすら入れられなかったのだから。
「…あのさ、俺は名無しちゃんの企画好きだぜ?でも今回は相手先が年寄りだからな。なんつーかわかりやすさ重視が‥」
「慰めてくれなくても結構です。反省すべきところはわかってますし、落ち込んではいないですから」
慰めるように気まずそうに声をかけてくるサッチに企画書を握りしめる。
「打ち合わせは昼からでいいですか?」
「んあ?今しねぇの?」
「……ちょっと、時間空けて貰っていいですか」
「んー、まぁ別に構わねぇけど、じゃあいけそうになったら声掛けて」
「はい」
ダルそうに座っていたサッチは欠伸をしながら小会議用の個室から出ていく。
それに釣られて名無しも出たが、部署には戻らずそのまま非常階段に足を向けた。
誰もいないことを確認してから、企画書を丸めたまま踞る。
「…っ‥」
不甲斐なさと悔しさと、色々な感情が一気に溢れて涙がボタボタとスーツに落ちた。
マルコの前で我慢できてよかった。
もう少しで泣いてしまうところだった。
「…もっと…頑張らなきゃ」
サッチみたいな実力はないから、努力でその差を埋めなくてはいけない。
とりあえず泣くだけ泣いたら、早く部署に帰って打ち合わせをしようとハンカチで軽く目を押さえた。