06




サッチの仕事は昼前には終わったらしく、真剣さはどこに捨てたのかまたぶらぶらと席を離れていなくなった。



名無しが一週間以上掛けてやっていることをサッチはほんの数時間でやってのけてしまったらしい。


信じがたい事実にまた名無しの頭がずきりと痛む。
ここのところ慢性的な睡眠不足で、寝ていても仕事の夢を見てしまうぐらいだ。

それでもこの企画だけは通したいと言う気持ちだけでパソコンに向かう。


資料とにらめっこをして、パソコンと威嚇し合っての繰り返しだ。


どうしてもうまくいかない、ピンと来ない出来にぐしゃぐしゃと頭を掻きむしり、机に額をぶつける。
少し目を閉じると今にも寝てしまいそうで、太股を爪で摘まんで叱咤した。
ぎゅっとめり込む爪に、顔を歪めてパソコンへ頭を上げるとサッチが隣から画面を覗き込んでいた。



「痛くねぇの?そんなことして」


「痛くないと意味がないんです」



名無しの足元を指差したサッチはどうやら摘まんでいるのを見たらしい。
慌てて手を離して咳払いをするとサッチがペットボトルの紅茶を机に置いた。



「やるよ、煙草のお礼」


「あ、どうも」



煙草自体がお礼だったのに、更にお礼を返されるとは。
このままではエンドレスになってしまう。



「名無しちゃんがくれた煙草のおかげて仕事が捗ったからな」


「そうですか、頂きます」



ペットボトルの蓋を開けて、暖かい紅茶を喉の奥に流し込む。
最近は睡眠打破の為に珈琲ばかり飲んでいたせいか、紅茶の甘さが染み渡るように身体に広がる。



「昼飯食った?」


「いえ、今日は食べないです。時間が足りないぐらいなので」


今日はと言うか、ここ一週間昼御飯は口にしていない。
昨日食べた天津飯が唯一まともなご飯で、あとは栄養サプリや簡易食ばかりだ。



しかも帰り道歩きながら食べて、家に帰ったらそのまま寝ると言う悪習慣。
一昨日はあまりの疲労で玄関で2時間ぐらい寝ていた。




「ちゃんと食べねぇと頭回んねぇんだぞ、ほら」


コンビニの袋から色々とスイーツやらサンドイッチやらを取り出して並べるサッチは、好きなのを選べとばかりに資料を押し退けて名無しの前に並べた。

「食べたら眠くなるんですよ、だから食べたくないんです」


「だめだめ、仕事より飯の方が大切だって」


「私は仕事の方が大切です」


「マルコにチクっていい?名無しちゃんが飯食わないで仕事してるって」



マルコの名前に名無しがぴくりと反応する。
昨日撫でられた頭を一度触ってから、ため息を吐いた。
無理するなと注意されたばかりだ、と自分に言い聞かせてフルーツサンドを手に取る。



「名無しちゃんってホントマルコのこと好きなんだな」


「まぁ、好きと言うか…心底尊敬してますから」



この部署に配属されてから、マルコには色々助けて貰ったし仕事の面でも精神的な面でもあれほど尊敬できる人はいない。



「ふーん‥ま、とりあえず飯は食えよ」



じゃあな、とサッチはまたふらりと何処かに出掛けていった。


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