05
「やっぱり返してください」
「え、嫌だ」
「別のにします、だから一回返してください」
吸わないなら完全に役に立たないものばかりだ。
何故煙草グッズをチョイスしてしまったんだとちょっと後悔してしまう。
サッチ=煙草と言う数少ないサッチへのイメージがそれをさせたわけだが、やっぱりサッチは理解できない。
「名無しちゃんが煙草嫌いじゃないなら禁煙してる意味ないから吸うし」
「そうですか、なら吸ってください。勿体無いですし」
返してもらったところで、名無しは煙草を吸わないので無駄になるだけだ。
サッチが吸うなら借りも返せるし、それは別に構わない。
「……へー、これ名無しちゃんが選んだ?」
早速煙草をくわえたサッチは火をつけながら携帯灰皿をマジマジと見つめる。
「そうですけど…」
「俺の前使ってた灰皿よく知ってたな」
「…たまたまじゃないですか?第一サッチさんが携帯灰皿使ってるの見たことないですし」
「なら趣味が似てるな」
「気のせいですよ」
紫煙を吐き出しながらパソコンを立ち上げるサッチをチラリと覗き見ると、目が合って手を振られた。
何となく気まずくてすぐに目を反らして不自然に資料を手に取る。
「よし、仕事するかな。たまには…」
「自覚あるんですね、仕事してない」
「やる気削ぐようなこと言うなって、俺だってやるときはやるの」
煙草をくわえたまま、軽く伸びをしたサッチはいつもとは別人のようにパソコンに向かう。
カチカチとマウスが鳴く音と、キーボードの音がまだ静かな部署内に響く。
同僚の言っていた、やるときはやると言うのはこのことなんだろうなと名無しは思う。
パソコン越しに見えるサッチは、真剣そのもので画面の前で小刻みに揺れる眼球がそれをよく語っていた。
名無しは軽く頭を振って自分の仕事に取り掛かる。
サッチに気を取られていたせいか、画面はスリープ状態になっていて不甲斐なさからため息を吐いた。
既に冷たくなってしまった珈琲を一気に飲み干して、積んである資料を探す。
そんなしている間にもサッチの仕事はあれよあれよと言う間に進んでいるらしく、悩む様子もなくキーボードの音が響く。
その音が妙な焦燥感を煽って、さっきまで冴えていた筈の頭が完全にフリーズしてしまった。
企画提出は明日の朝一だと言うのに、これでは今日の残業も決定したようなものだ。