03
最小限の明かりしかついていない部署内は不気味な感じだ。
たまに警備員の人が見回りに来るが、静かすぎて耳が痛くなる。
聞こえてくるのはパソコンからの機械音ぐらいで、名無しは髪をぐしゃりと指に絡めた。
まだ中盤だと言うのにかなり煮詰まってしまった。
焦りばかりが先に出てしまい、いまいちうまくいかない。
サッチに負けたくない、とそればかりが頭をちらついて肝心の閃きはない。
珈琲を啜りながら資料をもう一度確認する。
サッチに言われた部分を調べ直したら本当に間違っていて、最初からまた資料を集め直した。
「ちゃんとお礼言わなきゃなぁ…」
癪だが、こう言うことはちゃんとお礼をするべきだ。
本来なら舌打ちの一つでもしたいところだが、本当に助かった。
「まだいたのかよい」
「あ、マルコさん。お疲れさまです」
「どうだい、企画は」
「うー…ぼちぼちです」
ずずっと珈琲を啜ると、マルコはため息を吐いて紙袋を名無しの机に置いた。
「ほら、差し入れ」
「え?ありがとうございます!マルコさん優しい!」
こんな優しい上司に恵まれて幸せだ、と紙袋を覗いていると、マルコが隣の席の椅子を引いて座る。
「サッチからだよい」
「…ああ、そうなんですか」
マルコの言葉にテンションが一気に落ちた。
「サッチからだって言うなって言われたんだが、どうも黙ってるのは騙すみたいで気分が悪いからねい」
サッチとご飯食べに行ったマルコが頼まれて持ってきたらしい。
紙袋には大量の資料も入っていた。
しかも全て名無しが漏らしていた資料ばかり。
敵に塩を送っているつもりなのか、それとも相手にされていないのか、はたまた不戦勝させる気なのか。
「…そんなに毛嫌いしてやるなよい、名無しをこの部署に引っ張ったのはアイツなんだからよい」
「…初耳です、そんなこと」
食べたくないところだが、ここは好意に甘えて頂くことにした。
まだ暖かい天津飯を口に運びながら、一緒に入っていた資料に目を通す。
どこをどう調べたらこんなに出てくるのかわからないぐらい深い部分に触れている資料に、止まっていた名無しの頭が動き出した。
「前に名無しが出した企画をアイツだけが気に入ってねい、面白いアイディアだって誉めてたよい」
どうせ誉めてもらうならマルコに誉めて欲しかった。
口の端を指で拭いながらマルコを見ると、がしがしと頭を撫でられた。
「頑張りは認めるけど、あんまり無理すんなよい」
「ありがとうございます」
撫でられた頭を自分でもう一度撫でた。