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それから名無しは企画にばかり頭を取られ、パソコンと睨み合う日々が続いた。

一方でサッチは相変わらずダルそうにしているかと思えば、喋っていたり、定時前には帰る準備をし出す始末だ。



イライラするが、名無しには関係ない。
要はサッチよりも優れた企画を立てられればいい訳で、サッチが仕事をしてようがしてなかろうがどうでもいいのだが、やはり不真面目な態度を取られるとイライラする。



「なぁ、名無しちゃん。企画の打ち合わせと称して遊びに行かねぇ?」


「行くわけがないですよね、いきませんよ」


「煮詰まったりしねぇの?」


「例え煮詰まってもサッチさんとは遊びには行かないです」



やれやれとばかりに肩を竦めるサッチは名無しの集めた資料をパラパラと捲る。



「ちょっと勝手に…」


「これ、このデータ調べ直した方がいいぜ?」


「はっ?」



思わず眉間に力が入って、サッチが捲った資料に目を通す。



「それ数字間違ってるし、かなり前のやつだから」


「……どうも」


必死でかき集めた資料にケチを付けられたのと、それをサッチに指摘されたので素直にありがとうございますとは言
いづらい。
これがマルコなら、さすがマルコさん!と感動して頭を下げるが、サッチから言われると嘘かと疑いたくなる。



「サッチさん仕事しないんですか?ちゃんと企画出してくださいね」


「んあ?俺切羽詰まってからやる派だからなー、一生懸命って言葉嫌いなんだよな」



はははっ、と笑いながら資料を戻したサッチとはつくづく気が合わない。
一生懸命は名無しの好きな言葉だ。



「まぁなんとかなるって、いざとなれば名無しちゃんの企画で良いんだし」



ケラケラ笑うサッチは負けず嫌いと言う言葉は知らないらしい。
そんな不戦勝みたいなことはごめんだが、言葉と一緒に苛立ちを無理矢理飲み込む。




「あんま一生懸命にやっても仕方ないって、大切なのは思いつきっしょ」


「…あの、私仕事してるんで他所で喋って貰えますか」



サッチと話してるとイライラして仕事がうまく捗らない。
もともと煮詰まっていたのもあるが、さらに煮詰まった気がする。



「でももう仕事終わりの時間だけど」



サッチが時計を指差すが、名無しはそれを見ずにため息で返した。



「残業すんの?仕事好きだな。名無しちゃんって彼氏いないだろ」


「余計なお世話ですっ!さっさと帰って下さい!」



ダンッ、と机を叩いて叫ぶと、部署内の空気が固まった。
奥でマルコがため息を吐いているのが見えて、名無しは慌てて資料で顔を隠す。




「そんな怒らなくても、図星だった?」


「…早く帰って下さい、もう5時になりますよ。早く支度して早く帰っちゃって下さい」



資料を見ながらそう捲し立てると、サッチはへらへらと笑いながら帰る支度を始めた。



名無しは一向に終わらなさそうな仕事にうんざりするように頭を抱えた。



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