01
名無しには苦手な先輩がいる。
苦手と言うか、多分嫌いな分類に入るだろう。
身なりばっかり気を使って、気がつくと女にばかり話し掛けて蔑ろにされているその先輩の名前はサッチと言う。
他の同僚曰く、やるときはやる人らしいが、名無し的にはそのやるときとやらを一度も目にしたことがないし、いざとなったらやりますみたいな精神は大嫌いだ。
「…サッチさんと‥ですか?」
「ああ、企画を二人で練っといてくれるかい」
「な、なんでよりによってサッチさんとなんですか?」
上司であるマルコに意見したのは初めてだった。
マルコは仕事もできるし、真面目だし名無しは心底マルコに陶酔していたため、今まで意見したことはなかったが、今回は別だ。
「不満かよい」
「サッチさんとは…出来る気がしないです」
だってあの男、上司であるマルコに呼び出されてもこの場に来ないぐらい不真面目なのに。
さっさとクビになればいい。
「あんなしてるけどアイツは仕事は出来るヤツだよい」
「…っ、でも…」
絶対に出来ない。
サッチとだけは仕事はしたくない。何が悲しくてあんな男と仕事をしなくちゃいけないのか。
名無しがサッチを苦手としているのをマルコだって知ってるはずだ。
仕事に私情を折り込むなと言われたらそれまでだが、仕事をする上で相性と言うのも大切だ。
断言できる、サッチとだけは無理だ。
「悪ィ、遅れたー…」
話は既に佳境に入っているのにダルそうに二人の元にやって来るのは髪型だけはばっちり決めたサッチ。
上司のマルコの前だと言うのにネクタイはしてないわ、ポケットに手は突っ込んでるわで名無しは呆れてなにも言えなくなる。
絶対に無理だ、と再び心の中で叫んで込み上げてくる苛立ちを唇を噛んで堪えた。
「お、なんかもめてんのか?」
「お前名無しと企画作ってこいよい」
マルコが資料を放り投げるとサッチは面倒そうに頭を掻いて、それを手に取る。
「名無しちゃんと?まぁいいけど…あんま喋ったことないんだよな、いつも無視されるから」
「サッチさんが無駄な話ばかり振ってくるからです」
ツンっと言い返すと、サッチは困ったように資料を団扇がわりに揺らす。