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「そう言えばこの間来た仕事どうしたんですか?ゲームのストーリー原作の」


原稿を束ねながら口を開くと、ゲームをしていたクザンがあー、とどうでもよさそうに返事をした。


「俺があんなの引き受けるわけないでしょ。只でさえ恋愛もの書くことに抵抗があんのに」


溜め息をつきながらカチカチとゲームを続けるクザンは、ゲームの選択肢を間違えたのか小さく舌打ちをして口を尖らせた。

最初からわかっていたことだが、クザンは恋愛小説を書くことを苦痛としている。
それが何故なのかはわからないが、大学時代に書いたあの小説もほんのお遊びで書いただけで、本人は黒歴史だと思ってる節がある。


「先生の書く恋愛小説は引き込まれますよ。凄く好きです」

「名無しちゃん原稿あげたときだけ先生って呼ぶよね。凄い露骨」

「まぁおだてるのもある意味仕事の内ですから」

「あらら、はっきり言うね」


たいして興味なさそうに呟いたクザンは眠そうに半分目を閉じながら、携帯ゲームにかじりついていた。
なんと言うかこの執念を是非次回作に向けていただきたいものだが、今このタイミングで次の仕事の話をしたら燃え尽きてしまいそうなのでとりあえず話はまたタイミングを見計らってすることにする。


ダルそうに寝転がるクザンを見て、名無しは溜め息を吐いた。
癖のある髪の毛がさらにボサボサになっていて、スウェットもよれよれ。本来スタイルはいいし、顔は好みが別れそうだが悪くはない。大学のときのようにそこそこ小綺麗にしていればモテるのに、画面の中の女の子とばかりデートをして何が楽しいのかさっぱりわからない。



「ファンが泣きますよ、先生」

「俺のファンはこのぐらいじゃ泣かないでしょ」


こちらを見てそう告げたクザンは何故か不敵な笑みを浮かべていて、ジリジリと何かが焼るような気がした。


「そう思わない?名無しちゃん」

「なんで私に聞くんですか?私は泣くと思いますけど…」


何となく気まずくて目を反らすと、クザンはとぼけたように肩を竦めて、長い指で名無しを指差した。


「だって俺の一番のファンは名無しちゃんでしょ?名無しちゃんは俺のこと見て泣いたりしないわけだし」


まるでペットでも自慢するように自信満々でそう口にしたクザンに、名無しは思わず眉間にシワを寄せた。


「それは知り合いだからですよ、普通のファンなら」

「最初に会ったときも名無しちゃんはびっくりするどころか大絶賛して手まで握ってくれたじゃねぇの」


名無しの言葉の続きも待たずにそう続けられた言葉に、反論するうまい言葉が見つからなかった。


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テーマ「人外ファンタジー」
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