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ことの始まりは、大学の先輩だったクザンがサークルで書いていた同人誌を見つけたところからだった。

歴史研究サークルという全く冴えないサークルだったのだが、年にニ度、歴史を面白おかしく紹介する小説、所謂パラレル小説を書いて同人誌として発行していた。
それが地味に人気があり、大学の中では色々な人の手を回って名無しのところにも回ってきたのだ。


その出来に驚いて、感想を言うためにクザンをわざわざ探し回って絶賛したのはいい思い出だ。それが確か歴史の恋愛ものだった。
それから過去のものも探しだして見てみたが、恋愛小説がピカ一上手いのだと気がついた。


大学を卒業し、今の出版社に入ってからは勝手にクザンの作品を持ち込み、多少手直しすれば売り出せるという上が出した結論を知らせにクザンの家を訪ねた。クザンと話をするのは実はこの時がニ度目。
訪ねたときはあまりの厚かましさにドン引きされたが、もともとそんなに気にする方ではなかったのか、すぐにどうでもよくなったらしく大人しく名無しの話を聞いていた。


クザンの話をよくよく聞いてみると、色々小説を書いてはいたのだが、どの作品も没にされて今はどこかの大学教授のレポートを受けているとのことだった。その色々な小説の中に恋愛小説はもちろん含まれておらず、小難しいどこかで読んだことのあるような小説ばかり。

そんなクザンに無理矢理恋愛小説の話をして嫌々書かせたデビュー作品は、特に宣伝をすることもなかったのにじわじわと売れて異例のヒット作品になった。本人にその自覚があるのかどうかはわからないが。



「やれば出来るじゃないですか」

「そりゃあ名無しちゃんが怖い顔して後ろに立ってるからじゃあねぇの?」


少し困ったように頭をかいたクザンは、今時珍しい手書きの原稿を名無しの目の前に乱雑に置いた。
嫌だ出来ないと言いながらもきっちり仕上げてくるところを見ると、やれば出来るんだと思うが、いかんせんいつもの態度がだらしない。

部屋が汚いとか、風呂に入らないということではないのだが、何となく見た目がだらしない。いつでもスウェット姿で、いつでも恋愛シミュレーションゲームばかりしている。


「相変わらず作品はいいんですよね…ファンには見せられないけど」


崩れたように書き綴られた原稿から目を離してちらりとクザンの方を見ると、ゲームから目を離してこちらを見ていたクザンと目が合った。
女性作者として売っているわけではないが、作品の傾向から女性だと思われている。こんなモジャモジャのおっさんが、だ。
目の前で原稿を書いていても信じたくないぐらいだから、熱狂的なファンは卒倒してしまうかもしれない。


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