05
長い正月休みを終えて、ギャラリーに顔を出すと名無しとマルコがいた。
ドアを開けると普通に開いたので、勝手に入って勝手に椅子に座る。
目新しい写真は無く、マルコが呆れたような顔でこちらを見ていた。
「また来たのかよい」
「なんでお前まで嫌そうな顔すんだよ、おかしいだろ」
名無しが放って置けなかったのは、多分悪友であるマルコがいたからだ。
名無しとマルコは少し似ている。
人見知りなところとか、無愛想なところとか。
名無しの場合は人見知りなんて可愛いレベルではないが、出会ったころのマルコを彷彿させる。
「余計なことすんじゃねぇよい」
「あ?俺はなんもしてねぇっての」
マルコの言葉に真っ先に浮かんだのは名無しのことで、名無しを見ると既に席を外していた。
マルコが口を出したのは多分名無しが居なくなったのを確認してからだったのだろう。
それにしたって別に名無しに何かをした覚えはない。
イルミネーションを見に行った時も手は出さなかったし、ちゃんと駅近くまで送った。
本当に手すら握ってない自分を褒めて欲しいぐらいだ。
「あんまり名無しにちょっかい出すんじゃねぇよい」
「だからなんもしてねぇって、手すら繋いでねぇのに」
「当たり前だろい、手なんか繋いだ日にゃ殺すよい」
「…わー…マルコ怖っ」
ギッと目に力を込めてこちらを睨み付けてくるマルコに肩をすくませたサッチは短くため息を吐く。
「なに?お前名無しのこと好きなわけ?」
「俺はアイツの才能に惚れ込んでんだい」
ギャラリーに掛かる写真に目を移したマルコは、困ったようにくしゃりと髪の毛に指を絡める。
「ああ、名無しが撮る写真綺麗だもんな」
そう言うことか、と少しホッとしたように言うと、またマルコに睨まれた。
「そう思うなら名無しにちょっかい出すんじゃねぇよい」
「えー…理不尽過ぎだろ、名無しにはまだ何もしてねぇよ」
渋い顔をするマルコに、サッチが困ったように襟足を掻きながらまたため息を溢した。
名無しの写真が好きで通っているが、今は写真だけではなく名無しに会いたくて通っている。
それなのにこの男、なんの権利があってそんなことを言うのか、サッチには全く理解できない。
「名無しは、人間嫌いだからこんな写真が撮れんだよい」
「…あー、なるほど」
理解できないと顔に出ていたのか、マルコが舌打ちしてそう吐き捨てる。
なんとなく納得してしまうその言葉に、サッチはやれやれと言ったように首を後ろに倒した。
「でも名無しの人間嫌いってたいして変わってない気がするけど」
首を後ろに倒したままマルコに視線を送ると、腕を組んだマルコがまた舌打ちした。
「名無しのヤツ、スランプで写真が撮れなくなってんだい」
マルコの言葉に、不謹慎ながら喜びを覚えた寒さの厳しい冬。