03
その日は朝からシャンクスの機嫌が悪く、クルーもぴりぴりしていた。
カイドウに動きがあったとかで、いつになく真面目に何かをベックマンと話すシャンクスの隣にはぴったりと名無しがくっついていた。
違和感のあるその光景にからかいたくはなるが、とてもじゃないがそんな空気じゃない。
現にあれだけ名無しが大好きだと公言しているシャンクスがあれだけ名無しが密着しているのにも関わらずなんの反応も示さないのだから、間違いなく今はそれを口にするべきじゃないんだろう。
「名無し、偵察に出れるか?」
「はい、お頭」
ぴったりと左にくっついていた名無しにシャンクスが顔を見ずに告げる。
そんなシャンクスとは真逆に、名無しはシャンクスの顔から目を離さない。
いつもとは全く真逆のパターンだ。
今日は名無しの方がシャンクスにまとわりついていると言った感じだ。
せかせかと動き回るシャンクスの横をちょこちょこと名無しがくっついて回る。
「お頭、指示下さい」
「ちょっと黙ってろ。今忙しい」
「すみません」
普段なら絶対にシャンクスから漏れることのない言葉に名無しは嬉々として頷いていて、不気味すぎる。
いつもの名無しならとっくにストレートが飛んでもいいころなのに、名無しは怒るどころかシャンクスに冷たく当たられてむしろ喜んでいるようにも見えた。
女心とはつくづくわからないものだ。とクルー達は心の底からそう思わずにはいられない。
「カイドウの船には手出しはするなよ、向こうが攻撃してきたら迎え撃つ。それまでは絶対に手を出すな」
「はい、お頭」
少し嬉しそうにはにかんだ名無しは機嫌の悪いシャンクスとは真逆にご機嫌で偵察へと出向いていった。
いつも名無しが偵察に出されるときは事態が深刻なときのみ。と言うのも真剣なシャンクスに命令されないと名無しが動かないと言う理由だ。
シャンクスもシャンクスで秘蔵っ子にしておきたいらしくなかなか名無しを外に出そうとはしないからと言うのもある。
「アンタと名無しは両方機嫌がいいってことが本当にないな」
「俺の機嫌が悪いと名無しは妙に機嫌がいいからな」
報告待ちのシャンクスが小刻みに貧乏揺すりを繰り返しながら器用に閉じていた目を片目だけ開ける。
「アンタが真剣なのが好きなんだろ、珍しくぴったり横にくっついてたな」
「ああ、胸がちょっと当たっててどうしようかと思った」
「………」
「なんで黙るんだよ」
「さっきまでの真剣さをどこに置いてきたんだ?」
「もう大丈夫だろ、名無しが出たんだ。たいして事は大きくはならねぇ」
満足そうに笑うシャンクスを見て、きっと名無しはこんな顔を見たら嫌そうな顔をするんだろうなとベックマンはため息を吐いた。
赤髪さんちの天の邪鬼「名無しみたいなのをツンデレって言うんだろ?」
「多分、違うんじゃないか?」