02
名無しが無事に偵察から帰ってきたと言う格好の名目の元行われた宴。
主役のはずの名無しは、今日も大人しくベックマンの隣を陣取りちまちまと酒を飲む。
「名無しー!一緒に飲も‥ぐはっ!」
「寄るな酔っ払い!!トレードマークの髪の毛むしるぞ!!」
ほろ酔いのシャンクスがご機嫌に近寄ってきたところを新品の酒瓶を投げつけて撃退した。
「鳩尾に…入った‥っ」
苦し気に踞るシャンクスには目もくれず、名無しはまたちびちびと酒を飲む。
酔っ払いのシャンクスなんて名無しにとってはその辺のちんぴら海賊と同等の価値しかない。
つまり死ぬほど嫌いだ。
「酔っ払いの時に真面目な顔を求められるのは、流石に俺でも厳しいんだが‥」
鳩尾を押さえながら踞るシャンクスが悔しそうにそう漏らすが、真面目な顔をしている時以外のシャンクスの声は名無しには一切聞こえない。
スルー一択しかコマンドはない。
「クソッ、名無しと飲みたいっ!ベックめ‥船長の俺を差し置いて紅一点と飲むなんてどういうことだ」
「俺に聞くな、アンタが毎回真面目にしてれば名無しだって寄り付くんじゃないのか?」
「俺と真面目は水と油みたいなもんだぞ!真面目に生きるのが嫌で海賊になったのに!!」
悔しそうに床をダンダンと殴るシャンクスに名無しは鬱陶しそうに一瞥をくれてやる。
ため息すら吐かないと言った嫌いようだ。
「なら名無しに構うのは諦めろ、今のアンタじゃ無理だ」
「俺を侮るなよ…俺は一応四皇だからな‥」
「一応って自分でつけるな。こっちが情けなくなる」
「紅一点と飲むためなら水にだって溶け込めるに違いない!それが四皇!」
「甚だしい勘違いだな」
踞って動かなくなったシャンクスは暫く沈黙を貫いたあと、むくっと起き上がって投げられた酒瓶を手に取った。
そして軽く咳払いをして、テスト的に軽くあーあーと声を出していた。
「よく無事に帰ってきたな、名無し。ちゃんと飲んでるか?」
このシャンクスに効果音を付け加えるとしたら間違いなくキリッと言ったところだろう。
そのくらいわざとらしい真面目な顔だ。
一応声に反応した名無しは、確認するように隣に座ったシャンクスを見つめる。
頑張れお頭、と言う声援が聞こえたような聞こえなかったような。
「……」
名無しが口を開きかけた瞬間、シャンクスの顔が少し緩んで名無しが顔を歪めてから反らした。
「……一瞬緩んだ」
「マジか」
「マジだ」
ベックマンが名無しの代わりに口を開いて、呆れたようにため息を吐いた。
「一瞬でもダメなのか…俺はいったいどんだけ緊張しながら名無しと話せばいいんだ」
「白ひげと話してるとでも思えばいいんじゃないか?」
「馬鹿言え、白ひげと話すときの俺はもっとフランクだぞ?」
「じゃあセンゴクだな」
「あれはむさ苦しくて話したくないだけだ、別に真面目な訳じゃない」
名無しを挟み込んでちょっぴり真面目に話をするシャンクスとベックマンを余所に、名無しはすくっと立ち上がって伸びをした。
「ベン、私もう寝るね。お頭に会ったら伝えといて。おやすみ、コスプレ野郎」
「ああ!お休み!!」
名無しがシャンクスをちらりと見てそう告げると、シャンクスは嬉しそうに笑った。
「それでいいのか、アンタ」
コスプレ野郎扱いをされてへらへら喜ぶシャンクスにベックマンは呆れるしかなかった。