03
なんで名無しみたいな女と同居しているのか、自分でもよくわからない。
別に可愛いわけでもないし、その前に男女の関係ではない。
同じベッドでは寝てるがお互い抱き枕状態なわけで今まで一度も意識したことはない。
「うーん、自分でも不思議だ」
白菜を刻みながらサッチは一人呟く。
名無しがいて助かることはない、むしろご飯を作る手間が増えて、自由な時間が減ったとは思うが特にそれが苦痛な訳でもない。
家賃、電気代、食費は特に変わらないし、増えたのは水道代とガス代ぐらいか。
自炊するようになって微妙に浮いた食費、名無しがいることで交遊費は減ったので、むしろ黒字だ。
「ご飯まだー」
「やっと布団から出たのかよ」
暖房が効いてきて、名無しは布団からコタツに移動して、首まですっぽりとコタツに埋まっていた。
ピンポーン。
何とも軽やかな音が響く。
名無しを見やるが、当たり前だが動く気はないらしい。
コンロの火を消して、サッチが玄関に向かう。
火は消しておかないと、吹き出しても名無しは微動だにしなさそうだから。
ピンポンピンポンと連打される呼び鈴にサッチは、はいはいはいはいと連動して答える。
こんな迷惑な押方をするのはヤツだけだ。
「なんだよ」
「遊びに来てやったよい」
「なんで上から」
「いいから早く入れろい」
ずかずかと勝手に入り込んでくるのは昔からの友人のマルコだ。
連絡もなしに来るなんて珍しいなんてものじゃない。
コタツでは名無しが寝てるのにな、とため息を吐いたサッチは勝手に上がるマルコの後を追い掛けた。
「…は?」
マルコの間抜けな声。
「え?」
名無しのやる気のない声。
マルコは名無しの顔を覚えていたらしく、サッチを振り向いてなんで?みたいな顔をしていた。
「お前等、そんな関係だったのかよい」
「いーや、ただの同居人」
「サッチにはお世話になりっぱなしです、はじめまして同居人兼寄生虫の名無しです」
コタツからごそごそと身体を出して、座った名無しはぺこりと頭を下げた。
どうやらマルコのこともすっかり忘れているようだ。