09
「……サッチが男だったなんて!この獣!」
「いやいや、お前は俺をなんだと思ってたわけ?」
シーツにくるまって顔を手で覆う名無しは指の隙間からサッチを見る。
呆れたように煙草に火をつけたサッチはそれを名無しに差し出した。
口を尖らせてそれを唇で受け取って深く吸い込む。
サッチのやりたいことぐらい一回で学習した。
軽く触れた唇を確認してから肺に入れた紫煙を吐き出すと、今度はサッチがそれを深く吸い込んだ。
サッチの唇からふ、と短く出てくる紫煙の量は名無しが吐き出した量の半分もないぐらい。
「美味しくないでしょ」
「いや、名無しが吸い込んだあとだから美味い」
「やだ、変態がいるわ」
露骨に嫌な顔をして見せると、サッチがへらりと笑って煙草をくわえる。
身体をサッチの方に傾けて、唇を少し期待するように開けるとサッチの唇から紫煙が潜り込む。
それを肺に入れてみるが、全く味はしない。
吸いカスを吐き出すように勢い良く息を吐くと、不満そうに顔をしかめた。
「…サッチって私のこと好きなの?」
サッチの指から煙草を受け取って吸い込む名無しは、近づいてくるサッチの顔にまたか、と内心毒づく。
紫煙を吐き出すのを待ち構えるように唇を啄むサッチに、ゆっくりと吹き込む。
吹き込んだのはいいが、唇は離れる事なくニコチンの絡んだ舌が侵入してくる。
「…んっ」
紫煙が口腔内に充満して、唾液と一緒にサッチに絡めとられた。
「だからお前は俺をなんだと思ってんだよ」
軽く下唇を吸い上げたサッチが困ったように片目を細めて笑う。
「なにってサッチはサッチ」
「なんとも思ってないヤツと毎日毎日好き好き言いながらキスなんてしねぇよ」
山になった吸い殻を袋に捨てて、空になった灰皿に灰を落としたサッチは袋を結んでゴミ箱に放る。
「えー‥私てっきりネタなのかと思ってた、騙されたー」
「嘘つけ」
「いやマジで」
煙草をくわえながら目を細めるサッチにふらふらと手を振ると、軽く笑われた。
「よく言うぜ、あんな顔しといて」
「なに…あんな顔って」
不審そうな顔をする名無しに、煙草の火を消したサッチがベッドに乗り上げる。
「別に、ほら寝るぞー」
「なによ!気になる!あんな顔ってなに!?」
「…だからあれだよ、俺のこと好きで堪んないって顔」
「はぁ!?」
「いやマジでしてたから。じゃねぇとさすがの俺でも酔い潰して抱かないし」
シーツを巻き取って、全裸の名無しを抱き締めたサッチはぎゅうぎゅうと肌を確かめるように力を込める。
「ちょっ、服着ないと‥」
「いいじゃん、こっちの方が落ち着くし」
「全く落ち着かない、だいたいサッチはパンツはいてるくせに」
「じゃぁ脱ぐ?」
「いやいや私にも着せると言う選択肢が欲しい」
君マニアック「あれ、告白されたっけ?なんでこんな‥流されてんの私」
「今更だろ?毎日してたし、明日からも毎日するし」
「え!?明日からもするの!?」