05
ぼんやりとしてくるが、何故か意識はハッキリしている。
考えることに靄がかかるだけで、目からの情報はしっかりしているのがまた気持ちが悪い。
「薬酒だからそんなに悪酔いはしねぇよ」
「…え?うん」
サッチが笑いながら言う言葉に、名無しの頭はついていけずにただ返事をする。
なにが、とかどうしてなんてところまで脳みそがついていかないのだ。
残った酒をサッチが喉を鳴らしながら美味しそうに飲む。
「…部屋に帰るんじゃねぇの?」
からかうように笑うサッチは、もう飲まなくていいと言っているらしい。
それは理解できるのだが、身体が全く言うことをきかない。
立ち上がりたいのは山々なのに、痺れたように身体が動かない。
力が上手く伝わない身体に名無しはため息を吐いて、込み上げてくる吐き気を堪えた。
身体中が消毒されたみたいな感覚だ。
呼吸をする度に身体中にアルコールが回ってくる。
「回ってきた?きっついだろ」
サッチは楽しそうに笑いながら新しい煙草に手を伸ばす。
既にもう一箱は開けている為、灰皿には吸い殻の山が出来ていて、置く場所はない。
気持ちが悪いのに、そんなことを考えていた名無しの椅子をサッチが足で引き寄せる。
ガタガタと床を引きずられてサッチの方へと移動する椅子に名無しはバランスを取るようにテーブルを掴んだ。
「…なぁ、ネタでいいから俺と寝てみる気ねぇ?」
「はっ?」
顔のすぐ近くで煙草の燃える音がチリチリと聞こえる。
「嫌なら逃げろよ」
顔をしかめる名無しにサッチがへらりと笑う。
逃げろなんて言われても、身体が言うことをきくならとっくの昔にこんなところにはいない。
落ちかかる頭を手で支えるのがいっぱいいっぱいだと言うのに、逃げるなんて高度なことが出来る筈がない。
勿論サッチだってわかってる筈だ。
「もう少し仲間でいてやりたかったんだけどな、ちょっと状況が変わった」
椅子から剥がすように名無しの身体を抱き寄せるサッチの唇が耳朶に触れて、低い声が脳髄を揺さぶる。
密着したサッチの身体がやけに熱くて、酔いが更に回った気がした。
「サッチ…やめて、気分悪い」
そんなやり取りをしてる場合じゃない、と腹部に回った手をほどこうと触れると、手首を握られて失敗に終わった。
胸焼けとグラつく頭では精々この程度が限界。
もとからサッチの方が力が強いのはわかりきっているが、今は特になにもできない。
よっ、と掛け声が聞こえて身体が宙に浮く。
浮遊感に顔をしかめた次の瞬間にはベッドの上に優しく下ろされた。
「こうでもしねぇと、一生仲間で終わるだろ?」
ギシッと軋むベッドの音がやけに耳に触った。